第25話 残念美少女、お姉ちゃんになる

 私とドンは二人してダンジョンを出たのだが、その前にこんなことがあった。


「ねえ、ドン、この絵の意味って分かる?」


「ううん、ボクも初めて見たよ」


 ドンがいた部屋の壁には大きな壁画があり、そこに描かれているものが、私の注意を引いたのだ。

 壁いっぱいに描かれた大きな三角形があり、それが床に水平な線でいくつかに区切られている。

 それぞれの枠には、横一列にデフォルメされた人の絵が描かれており、それはエジプトの象形文字を思わせた。

 私の注意を引いたのは、上から二番目の区画で、そこには人が三人立っており、その一人から放射状に青い線が引かれている。

 それは呪文を唱えた魔闘士の姿を思わせた。


 その横には、ひざまずいた人に手をかざしている女性、そして、剣を持つ人が並んでいる。

 もしかすると、あれは聖女、勇者かもしれない。


 三角形の一番上は、白い線が放射状に描かれているだけで、人は描かれていなかった。

 

 ◇


 ギルドに帰ろうとした私たちは、道の途中で立往生してしまった。

 若い女性たち、中年女性、そしておばあさんまでが私たちを取りかこんだからだ。


「ね、ねえ、お名前は?」

「ウチで食事しておいきよ」

「若返るわ~」


 みんなドンを見て、目をハートにしている。


「お姉ちゃん、ボクなんか怖いよ」


「安心してドン、みんなに悪意はないから」


 人混みをかきわけ、なんとかギルドの入り口を潜った。

 振りかえると、五人ばかり女性にしがみつかれたドンが入ってくる。

 その女性たちは、ギルド職員につまみ出された。


「おう、嬢ちゃん、またえらく綺麗なもん連れてるな」


「ええ、グラントさん。ダンジョンで知りあったんですよ」


「えっ!? 嬢ちゃん、まさか、新発見のダンジョンに潜ったのか?」


「ええ、最後の部屋まで行きました。このドンとは、そこで会いました」


「おいおい、一人でか?」


「ええ、最後の部屋までは一人ですね」


「……呆れるしかねえな。お宝はっ、おっとそいつは聞いちゃならねえな」


「一つくらいなら、いいですよ」


 グラントさんの隣に座り、マジックバッグから未開封の宝箱を取りだす。

 大きさと形は、ティッシュの箱くらいで宝石が散りばめられている。


「おいおい、この箱だけで大した値打ちもんだぜ。開けてもいいか?」


「ええ、私もまだ中は見てないんです」


 グラントさんと私が座るテーブルに冒険者が集まってくる。


 カチリ


 宝箱が開くと、歓声が上がった。


「「「おおおおっ!」」」


 そこには、色とりどりの宝石がぎっしり詰まっていた。


 ◇


「もう、呆れるしかねえな」


 私はドンと二人、個室でギルマスのトリーシュさんからお叱りを受けていた。


「じゃ、何か? 少しでも体重を減らそうと思って、一番きつそうなダンジョンに入ったと?」


「ええ、その通りです」


 トリーシュさんが頭を抱える。


「お前なあ、そんな報告書が通用すると思ってるのか?」


「いけませんか? 本当のことなのに」


「だめだな。しょうがねえ。その若えの、ドンだっけ? そいつがダンジョンに迷い込んだのを、お前が助けに行ったってことにしとくぞ。誰かに尋ねられたらそう答えとけ。いいな?」


「はい、分かりました」


「しかし、その若えのは、記憶がないのか?」


 ダンジョンから帰る道すがら、ドンから彼の経歴は聞いていたので、とりあえず、記憶喪失ということにしておいたのだ。


「ええ、恐らく魔獣に襲われたショックで、記憶を失ったのでしょう」


「しょうがねえなあ。とりあえず冒険者登録だけしておくから、記憶が戻ったら報告してくれよ」


「分かりました」


「あと、ギルド章、また出しておいてくれ」


「はい」


「次にダイエットするときゃ、どんなことするか報告してほしいもんだぜ、まったく」


「す、すみません」


 ◇


「まあまあまあ、なんて綺麗な人なんだろうねえ」


 ドンを『アヒル亭』に連れかえると、おばさんにそう言われた。


「おばさん、彼に部屋を取ってもらえますか?」


「そりゃ、ウチは大歓迎だよ。こりゃ、明日から忙しくなるよ」


 その時は、おばさんの言っている意味がよく分からなかったが、次の日、二階から降りると、すぐに納得した。

 宿の食堂が満員なのだ。しかも、そのほとんどが女性だ。

 慌てて二階に戻ると、ドンの部屋をノックした。


「お姉ちゃん、どうしたの?」


 ドンの精神は、まだ子供だ。彼から聞いた話が正しければ、封印されていた時間を除けば、彼は生まれてから半年もたっていない。

 

「ドン、今は下に降りちゃだめよ。そうね……今日は、窓から出ようか」


 私がそう言いながら、寝癖を直してやると、ドンは無邪気な笑顔を浮かべた。

 いや~、食堂の女性たちが見てなくてよかったよ。

 今の笑顔見ちゃったら、みんな立てなくなってたな、うん。


「お姉ちゃん、窓からお外に出たいの?」


「うん、そうだよ」


「じゃ、ボクが手伝う」


 長身のドンが、私をお姫様抱っこする。

 彼は窓から身を躍らせた。

 地面に降りる衝撃に備えて目を閉じていた私は、いつまでたってもそれが来ないから目を開けた。


 私はドンに抱えられたまま宙に浮かんでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る