あの満点の星空を目指して
多良はじき
第1話 挑戦は突然に
産まれた時から踊りに興味があった訳でも、ダンスを習う事でアイドルになりたいと思った訳じゃない。スポットライトを浴びて、大きな歓声の中ダンスをしたいと思った訳でもない。
私が習い事を始めた理由は、クラスメイト達が習い事を始めるようになり、何でも良いから一つ習い事でもしないと話題についていけないと思ったからだ。私の住んでいる所は津市内でも比較的裕福な団地内で、周囲の友人達はバレェやピアノなどお金のかかる習い事をしている女の子が多かった。
私の家は決して貧しい訳ではなかったけど、大手住宅メーカーに勤めている父の影響で必要以上に高い家を購入せざるを得ない状況だった。私の下には小さな弟が2人いた事もあり、住宅ローンと生活費だけで一杯一杯の母を見ているとお金のかかる習い事をしたいとは言えなかった。
そんな中、比較的安い値段で習い事ができる市民センターにてヒップホップ教室がある事を知り、私は申し込む事になった。自分がやりたかったからというよりも、コスパの良さだけで習い事をしていたので、「私、踊り覚えるぞ!」といった意欲満々という訳ではなかった。
それでも、私にとってはクラスメイトに「ダンス習っているの」と言えるようになったので「行かないよりマシ」な習い事だったのだ。
ある日、ヒップホップ教室の先生から「咲さん、よさこい祭りに興味ある?」と声をかけられた。
ミドリ先生はすらっとしたキレイな人で、教室のみんなからも憧れの的だ。教室のみんなは、みんなミドリ先生に憧れている人が多い。でも、ミドリ先生って元々アイドルみたいにキラキラして眩しい程に美しいし、スタイルだってテレビから抜き出てきたように綺麗だ。
私自身もミドリ先生に憧れて教室に通っているものの、到底ミドリ先生のようにはなれないだろうなと思っている。ちょっとでも後ろで一緒に踊れるだけで満足なのだ。
それに、私にはミドリ先生が私によさこいチームに誘っている理由だって本当は知っている。私と踊りたいからっていう理由とかじゃなくて、ただ単にチームに人数が足りない事、秋に出場する予定の安濃津よさこい祭りでは人数が多ければ多いほど入賞に有利だからだ。
よさこい祭りでは、基本的に人数が多くなければテレビに映えないので入賞は厳しくなってしまう。つまり、チームで踊るのは私じゃなくても良いし、他の誰かでも良いのだ。とにかく、人数が多ければ多いほど見栄えがするという事だけが問題なのだ。
「ふぅん。どうせ暇だし、別にいいですよ。」気のない返事をすると、ミドリ先生は「やったぁ!嬉しい!咲ちゃんと一緒に踊れるなんて、先生嬉しいわ。もしよかったら、咲ちゃんのお友達も何人か誘ってくれない?みんなで楽しく一緒に踊りましょう。」と両手を上げて飛び上がって喜んだ。
ほらね。そうやって、私だけじゃなくて「友達まで誘え」って言うんでしょう?つまり、私は人数増員の為に利用されるって訳よね・・・。
先生が喜んだのもつかの間、私は「もしよかったら、咲ちゃんのお友達も何人か誘って」の部分に対して一気に憂鬱な気持ちになった。自分が躍るだけで済むならまだしも、ノルマまであるなんて面倒以外の何物でもないよね・・・。こんな事なら、お誘いに乗らない方がいいしやっぱり断ろうかなと思ったものの、既にノリノリのミドリ先生の姿を見ると何も言えない自分がいた。
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