第26話 仕掛け ③
放課後。
俺と昌は、岡田生徒会長に会いに行った今日子と徳井の帰りを待っている。
俺は授業中もずっと気になっていた、昌の言葉の真意について問いただした。
「凛先輩に気をつけろってどういう事なんだ?」
「ああ、さっき言った事か……白石先輩が何かを隠しているような気がするんだ」
「隠している?」
「そう。なんか不自然な気がするんだ」
「例えば?」
「徹の家に来た事、生徒会室に連れて行ってパソコンで作業をさせた事、そして何より不自然なのは生徒会副会長の職にいる事なんだ」
昌は席から立ち上がり、教室の壁にもたれながら言った。
「でも、俺の家に来たのは家庭の事情だし、生徒会室でパソコンの作業したのは人手が足りなかったからだろうし、生徒会副会長なのは岡田生徒会長が任命したからだろう。何が不自然なんだ?」
俺は自分の席から立っている昌を見上げて聞く。
「タイミングだよ」
「タイミング?」
「全てのタイミングが良すぎるんだよ。何か俺たちを、この事に巻き込みたくて行動しているように見えるんだ」
「でも、そんな事をして凛先輩に何の得があるというんだ?」
昌は腕を組み、真っ白な天井を見やって目を閉じた。
「うーん。わからない。わからないけど少なくとも俺と徹は、岡田生徒会長のブラックリストに載っている。その二人がこうして巻き込まれているのも偶然とは思えないんだ」
「えっ! 俺も載っているの!?」
「ああ、備考欄は破壊者」
破壊者? なんだそれ?
俺が不思議そうな顔しているのを見て、昌が話し出す。
「えーと、意味は こわす人。安定しているものや組織などをこわす人。 ってスマホで調べたら書いてあるな。まあ、岡田生徒会長にとって大切な組織を壊す、邪魔な人物っていうことじゃないかな」
はぁ~っ? 邪魔な存在だって? 俺は岡田生徒会長の邪魔なんてした事はないぞ!
岡田生徒会長は何書いてんだ!!
「訳わかんないよ!」
「あははは……徹はそう言うと思ったよ」
「じゃあ、昌にはどういう意味か分かるのか?」
「おいらにはわかんないずら」
「昌! おまえまたそのキャラでごまかしたな!」
昌はニンマリと笑いながら言った。
「まあ、今は焦らなくてもいずれ知ることになるさ」
「なんだよ? それは!」
「まあ、とりあえずは白石先輩をしっかり監視してくれ。俺たちの味方なのか、敵なのかはわからないけど、注意しておいたほうが良いだろう」
俺にとって凛先輩から受ける印象は、学園にいる時と違って喜怒哀楽が激しく真っ直ぐで一生懸命、時々暴走するけど、昌が思っているような悪だくみを出来る人だとは思えない。
昌の考え過ぎじゃないかな。
そんな事を思っていると、今日子と徳井が生徒会室から帰って来た。
今日子の話だと、生徒会室では岡田生徒会長との会話はほとんど無く、ミスコンに出場する為の書類を幾つか書いただけだったらしい。
まあ、これで作戦は順調に進んではいるのだが、さっきの昌の言葉は気にかかる。
(白石先輩には気をつけろ!)か…………。
考えているうちに家の玄関まで来てしまっていたようだ。
「ただいま………………って! なんなんだよ! その格好は!?」
玄関の扉を開けて真っ先に俺の目に飛び込んできたのは、凛先輩の水着姿である。
ブルーに黒のラインが入ったビキニで、胸元と腰のあたりにワンポイントのリボンが付いている。
細身なのにささやかながらしっかり胸の谷間もあるし、腰からお尻にかけてのラインなんて……って何を説明してるんだ! 俺!
「どう? 徹君! 似合う?」
凛先輩は屈託の無い笑顔で、俺に聞いてくる。
ここは完全スルーしたいところだが、敢えてツッコミを入れてみる。
「なんでこんな所で水着なんか着てるんだよ!」
「なんでって、ほら、もうすぐ夏でしょう。だから新しい水着を買ったの」
「いや、新しい水着を買ったのはいいんだよ。そうじゃ無くて俺が言ってるのは何でそれをここで着ているのかって事だよ!!」
「それは…………」
凛先輩は頬を少し赤く染めて、もじもじしながら口ごもっている。
「それは?」
「新しい水着の着ている姿を徹君に一番最初に見せたかったから」
本当にこの人はどうしてこうも、学校と家とでイメージが違うんだろう。確かに、姉弟として早く馴染んで欲しくて頑張ってくれているのは分かるんだけど、流石にこれはね。
「あのさ、水着は似合ってていいと思うんだけど、世間一般的に弟に水着を見せるために玄関で待っている姉は殆どいないと思うよ。それに何より、凛先輩も恥ずかしいだろう!」
「ん? 私は恥かしくなんて無いわよ。なんなら、この水着を取ろうか?」
そう言って水着の紐に手を掛ける。
「いや! しなくていい!」
俺は慌てて制止して思った。
前言撤回! この人はただ脱ぎたいだけだ!
「とりあえず、早く服を着てきてご飯にしてよ」
「そうね。分かったわ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます