神草埜々

遡る事数時間前、先の騒動が起こる前の話をしよう。

康太が補講をしている時間であった。

職員の校門口から一人の女学生が出てきた。

その学生は綺麗な金髪をサイドテールでまとめ、茶色のカーディガンを着ており、周りを確認するように恐る恐る確認しながら歩いている。

彼女の名前は神草埜々。

魔術科1年。

成績は実技の成績は常にトップ。

そして魔術省における10人しか居ない冠位の10人(グランドマスター)の一人だ。

また彼女はその可憐な容姿からスカウトされて、アイドルとしても活動しており、実力容姿共に備わった魔術省の顔とも言える人物が彼女である。

確かにの魔術実技においては、一流と呼ばれる魔術師や無論、他の学生にも追随を許さない実力であるが、実際は魔獣との実践経験はほぼ無いに等しい。

アイドル業にしたって親が勝手にプロダクション事務所に応募し、そして選考が通ってしまい、仕方なく始めたのがきっかけだ。

この職員用の出口から帰るのは、正門や裏門から帰るとファンの押しかけや男子生徒からのサインの要求やらでキリがないからだ。

それで教師の許可を取って職員用の出入り口から学校へ通っているという訳だ。

少し学校から離れたとこまで行き、神草がもう大丈夫かなと気を抜いて一息ついた時であった。

後ろから「わっ」と声をかけられ、身体をビクッと震わせた。

すぐさま振り返ると、そこには彼女の親友の顔があった。


「もー驚かせないでよ!ともかー!」

「いやー、ごめんごめん。そんな驚くとは思わなくってさー」


無邪気に笑うのは少女の名は大築智香。

彼女は康太とトモノリの幼馴染であり神草埜々の唯一の理解者であり親友だ。

彼女は神草桃と同じ魔術科のクラスメイトだ。

成績も神草には及ばないが上位優秀者で、彼女もこの高校では名が知れ渡っている。

その細身で華奢な印象から想像できるように、彼女は繊細で細かい魔術行使を得手とし、水属性の扱いでは高校生の中でも5本指に入るのではないかと言われているくらいである。


「そうそう、今からセントラルタワーのちかくにできた喫茶店行かない?今日から期間限定のスイーツ祭っていうのやってるらしいのよ」

「えっほんと!?」


スイーツ祭と聞いて女子高生としては行かなければならない使命感のようなものを感じたが、神草は今から予定があることを思い出し肩を落として智香に謝った。


「ごめん智香。今日私本部に顔出さなきゃいけないんだよ...」

「あー、そういえばそんなこと昨日言ってたね。じゃあ私はお休みですし埜々の分も今日は食べてきてあげるよ」


笑顔で言う智香は埜々には悪魔のように見えた。

智香も魔術省に所属はしている。

本来この組織は18歳以上からしか入ることのできない組織である。

ただし高校もしくは中学で成績上位者で魔術省の主催する実技試験に合格することができれば研修生として組織に入ることができる。

神草埜々についてはずば抜けた試験結果を叩き出したため、特例として冠位の称号と正式隊員として魔術省に所属している。

埜々はうーっと唸り声を上げて智香を羨ましげに見ていた。


「あはは、そんなに睨まないでもまだしばらくやるらしいから、埜々の空いてる日に行こうよ」

「絶対!絶対だからね!」


埜々は念を押して智香に訴えた。


「わかってるって。じゃあ今日は久しぶりにあの2バカでも連れて行ってくるよ」

「2バカって、智香がよく話してる幼馴染の人たち?」


そうそうと智香は頷いた。


「ここ最近遊んでなかったし、相手でもしてやろーかなってね」

「その子たちって普通科だったよね、確か」


以前から智香は埜々に康太たちの話をしていた。

高校に上がって科が別れてからは接点が少なくなったらしいのだが、埜々はきっと寂しいんだろうなと察していた。


「そうそう、普通科との接点なんて学校行事かたまに魔術の実技がかぶる程度だしね」


普通科にも魔術の実技の講義はある。

しかしそれは半月に3回程度であり、毎日と言えるほど魔術の実技がある魔術科に比べるとその差は大きいといえる。

そしてハッとしたように携帯のディスプレイに映っている時計の針が16時を刺そうとしていて、まるで子供のように慌てだした。


「うっわやばい、ごめん智香!また明日ね。」


そう言うと埜々は女子高生が走って出せるスピードとは思えない速度で走り出し、まさにあっという間に智香の視界から遠ざかっていく。

智香は「気をつけなよー」と叫んで埜々を見送り、智花はトモノリに携帯で電話をかけるのであった。

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