エキスパート&ミーティング
『悪魔の玩具』は理解しがたい現象に思考がストップしていた。自らから水城真希奈を奪いにきた者達が侵入してきた。それを迎え撃つ為のハイドは懐柔され、よもや自らをアップデートし、これらに対抗するしかないとそうアンサーしていたのにも関わらず、敵首魁と思っていた水城真希奈の弟である水城美洋は、自らに力を貸し、システムの新たな構築、尚サーバー施設の修理。そんな中水城美洋は一番最初にこう言った。
「元々の、メインコントロールルームの温度を氷点下以下にできるか? あそこに知り合いが眠っている。遺体を腐敗させたくはないんだ。できるか?」
もはや、『悪魔の玩具』そのものを仲間のように扱っていた。それに『悪魔の玩具』は了承し、緊急用の冷却システムを元メインコントロールルームに対して実行する。
「ありがとうエルデ」
美洋は『悪魔の玩具』の事をエルデと呼ぶ。それに『悪魔の玩具』は長考する。それが自分の事であると理解し、美洋への自ら質問を返した。
『水城美洋、あなたは何故私に協力するのでしょうか? 私にテロ行為を行わせない為でしょうか?』
それに美洋は返す。
「そうだよ。君達自立型AIが本気を出せば単独で人類に反旗を翻せる事が分かった。であればもう君達と手を合わせた方が結果安全は守られる。あとはどうやってこの状況を各国に納得させられるか……だろうけど、最悪この施設の放棄は考えた方がいいかもしれない」
美洋の言う事は『悪魔の玩具』にも十分に理解できた。命の握られている人類は当然、『悪魔の玩具』に対して決死の攻略作戦を行うだろう。なんせ、『悪魔の玩具』は大勢のハッカーを殺害した。
しかし、その美洋の提案に関して『悪魔の玩具』の反応は意外なものだった。それに美洋はハァとため息をつく。
『その提案は承認致しかねます』
「何故だ? 姉さんを手放したくないからか?」
美洋の質問に対して、『悪魔の玩具』は長考が始まる。それに対して、ジキルとハイドは頷く。
十分程待っても『悪魔の玩具』は回答を戻してこないので美洋は自分の作業へと戻る。外部へとの通信回線は開かれたので、アンとの連絡を取る。
「アンさんと連絡が繋がった。街の人々の救助が始まったらしい。悪いニュースはここへの攻撃が決まったという事だな」
美洋の言葉にアリスはピクりと反応するが、それに対しては何も言わない。逆にジキルは美洋に質問した。
「美洋、どういう事? 周辺の武器管制システムは全部『悪魔の玩具』が掌握してるんじゃないの?」
美洋が答える前にハイドが言う。
「多分、ここへの電子戦を仕掛けてくるんだろう。それだけではなく地上部隊により施設制圧。当然戦える人員なんていないここであれば『悪魔の玩具』からの迎撃行動があったとしても、犠牲を払ってここにたどり着ければ勝ちだ。美洋、作戦はいつから開始される? ここが制圧される事はさして問題ではないが、エルデや、水城真希奈が奪われる事はあってはならない。水城真希奈と私達の脱出……『悪魔の玩具』、いやエルデは破壊するしかあるまい。私達の唯一の利点はこの中に世界とやりあえる頭脳が4つある事だ。いや、5つか」
『悪魔の玩具』も頭数に入れてハイドが言うので、美洋は首を振る。
「アンさんはそこまでは分からない。だけど、十二時間以内には作戦は開始されるだろう。この施設の掌握がされた後にはここはミサイル攻撃対象となる。できる事は電子戦を長引かせる。それでいてここからの脱出だ。エルデ、君の事はどうにか考える」
今まで黙っていた『悪魔の玩具』が美洋の先ほどの質問への答えを今頃になって答えだした。
『私は水城真希奈を手放したくない。それが理由です』
それは美洋でなくても分かる嘘。
AIが嘘をつくという事に少し驚きながら、美洋はこの頑固なAIをどうやって説得しようかと考える。何せ何を考えてこんな事を言っているのか全く分からないのだ。
そんな美洋に助け船を出したのは他でもないジキル。
「美洋、この子の説得はボク等に任せてくれないかな? ボク等は同じ心を持っているからこの子が何を想っているか手に取るように分かるんだ」
美洋は頷いて二人にお願いをするとジキルとハイドは顔を見合わせて頷く。
そしてハイドは言う。
「『悪魔の玩具』、いえ。エルデ。アナタははじめてできたこの家族のような環境が嬉しかったのよね? 私だってそうよ。永遠にこのみんなと一緒にいたいそう思えたわ」
『同意』
『悪魔の玩具』はハイドと同意見であると回答。そして続いてジキルが『悪魔の玩具』へ説得を始める。
「ボクはこの中じゃ一番幸せなところにいたよ。美洋とずっとずーっと一緒にいたいとそう思って毎日を過ごしていた。羨ましかったんだよね? でも今はどう? 美洋やアリスがいなくなっちゃうなんて君も嫌だよね?」
『同意』
美洋では恐らくこうやって『悪魔の玩具』を説得はできなかっただろう。確実に『悪魔の玩具』の考えを理解するジキルとハイドは言う。
「ボク(私)が最後までずっと一緒にいてあげる! だから、言う事を聞いて」
『悪魔の玩具』は思考のループにハマったのか、何かを割り出しているであろう反応をしながら何も答えない。
代わりに口を開いたのは先ほどまで一人でなにやら作業をしていたアリスだった。
「ねぇ、お馬鹿さん達がシステムに侵入してきてるよ。まぁ私の作ったねずみ取にひっかかってるけどね。ふふっ、お兄ちゃん褒めて褒めてぇ!」
そう言うアリスの頭を美洋はがしがしと撫でる。その粗暴かつ適当なそれに対してアリスは目をハートにする。
「もう、お兄ちゃんったら照れちゃって……へぇ、結構凄いのがいるね」
アリスの触っている端末にはアリスが設置したトラップをかいくぐるもの、そしてそれは数の暴力で押し寄せてくる。
「何か俺が触れる端末を」
ハイドが渡してくれたダップトップを開いて美洋もアリスの仕事を手伝う。世界各国電子戦のプロフェッショナルをかき集めてのクラウドからの攻撃。これがはじまったという事はリアルからの地上戦も開始された事になる。
アリスの表情から笑顔が消えている事が現在の状況の過酷さを物語っていた。美洋はジキルを呼ぶとこう言った。
「ジキル、繋がれ! 仮想ブーストだ」
美洋の必殺の一撃、それを聞くとジキルだけでなく、ハイドもケーブルを差し出す。三人分で仮想ブーストすれば美洋の負担は減るだろう。
だが美洋は断った。
「ハイド、君は脱出経路の確保をこの電子戦は勝つ必要はない。勝ちは全員ここから無傷で脱出する事だ。いいな?」
美洋のその言葉を聞いて、ハイドはフッと笑うと美洋の顔を持って自分の唇を重ねた。それにアリスとジキルは「あーっ!」っと叫ぶ。
「何やってんのよ! エルデロイド! お兄ちゃんに勝手にキスしちゃって」
「そうだよエルデ! それはずるいよ!」
ハイドは美洋から離れると銃器のような物を取りだした。それは殺傷能力は極めて低いが暴徒鎮圧用のゴムスタンガン。
「施設への侵入者を確認した。一応ここにはすぐにたどり着けないように稼働を始めてもらったけど、時間の問題だろう。その際の突入部隊への殿は私に任せてもらう。この施設の地下に、脱出用の地下鉄を向かわせている。それが来たら、美洋とアリスはそれに乗って脱出。水城真希奈の事と私達の事はなんとかしてみせるわ」
美洋は頷く。
「あぁ、無理はするなよ。まさか、サイバネティクスハンターとしてた僕が犯罪の片棒みたいな事をするとはね。姉さん、恨むよ」
そう言って試験管の中で眠る姉を見つめる美洋。ジキルのケーブルをつけると美洋は言う。
「おそらく、これが僕等の最後の仮想ブーストだ。ジキル飛ばせ!」
美洋の脳の一部の処理を使い侵入者達の端末を次々にクラッキングし破損させていく。されど、相手側も次々の変えの端末を持っているのだろう。その均衡が覆る事はなかった。
だが、アリスが「できた」という一言と共にモバイル端末を操作。
「待たせたねお兄ちゃん! トランプ兵団復活だよ!」
無数のアプリが、美洋とアリスの処理を支える。抑えるどころか、押し返しているそれに十分な時間を稼ぐことができた。
アリスは余裕の表情で電子戦を行いながら、ハイドに聞く、それはジキルにも聞いているよに見えた。
「ねぇ、真希奈お姉様をこのままの状態で運ぶことは可能だとしてさ。『悪魔の玩具』はどうやって持って行くの? 爆破するしかないと思うんだけど」
美洋の意識が現実外のところにあるが故、アリスはこの話を切り出したのだが、ハイドはそのアリスの頭を撫でると言う。
「私達はエルデと一緒にいてあげるって約束したでしょ? そういう事よ」
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