マスメディア&ジャングル
テレビ局スタッフに案内されたスタジオに美洋とジキルが座る。そこには先にやってきてきたリーシャとピノッキオが既に着席していた。
美洋とジキルの席にミネラルウォーターが置かれているのは頷けるが、ピノッキオの前にも置かれている事に美洋の頭には疑問符が並ぶ。そしてこのテレビの放送という物は一応の流れがある事を教わり、まぁそういうものなんだなと美洋は了承する。
コメンテーターが二人程座り、そしてMCの男という並びだった。テレビ番組の出演なんて美洋にとっては初めての出来事、だが堂々とそしていつも通りやる気のなさそうな表情を見せていた。
「こんな若い二人がサイバー犯罪をおいかけているなんて世も末ですね! もっともそう言った犯罪に手を染める連中が一番問題なのですがね」
そういうのは何処かの評論家らしい男、一応空気を読んだ発言をしたらしいが、あきらかにリーシャは不満そうな表情を見せている。
やめておけばいいのにと美洋は思っていたが、当然立ち上がり、リーシャは評論家の男にこう言った。
「それは貴方達、前時代的人間が無能だからじゃないの? サイバー犯罪は卑劣な物も多い。それを警察機関が取り締まれなくなってからもうどれだけ経っているか分かる?」
それに反論しようとする評論家に司会の男が、そしてリーシャにはピノッキオが止めに入った。
「リーシャ、ここには口論をしに来たわけではないでしょう?」
ピノッキオにそう宥められてフンとリーシャは座る。そんな二人の関係が悪くなったところだったが、番組の収録は始まった。
大きなモニターに映し出されたのはアプリ『帽子屋さん』その利便性を説明した上で最近このアプリの使われ方に問題があるのではないかという事を司会者は言う。ここまでは先ほど収録前に話されていた通りだった。
その時点でもモニターにはリアルタイムでこの番組を見ている視聴者達のコメントが飛び交っていた。
「ではミラー先生、どうお考えでしょうか?」
ミラー先生は先ほどリーシャと口論をしていた評論家、彼は難しい顔をしてから話し出す。
「家庭であったり、学校職場等、人には言えない悩みやストレスを多く溜めた方々が世の中にはこれだけいるという事です。その為、このストレスをどうやって解消していくかではないでしょうか?」
ミラー先生の可もなく不可もなくなコメントは少しばかり荒れたコメントもありながら、もそれなりの賛同を得るにあたっていた。
それに満足したミラー先生は座る。それに無機質に拍手を送っていた美洋が司会に当てられる事になる。
「では、現役のサイバネティックスハンターである水城美洋さんに話をお伺いしたいと思います。本件に関してはどう思われますでしょうか?」
美洋はハァとため息をつく、それに画面上のコメントが一斉に反応した。美洋はみてくれはいい。それ故女性視聴者からのウケは良かったが、やる気のない態度に男性視聴者達のコメントは一斉に煽るような物となる。それにはミラー先生は少し満足したような表情を見せていた。
「犯罪者に良いも悪いもない。今この時点でコメントを流している者も犯罪であると断定した時点で特定し、牢屋に入れる事ができる。その為に僕達がいるんですよ」
モニターを見つめる美洋を挑発するコメントは絶えない、それに美洋は表情を変えずに、こうジキルの方向を見ずに言った。
「ジキル……」
ほほ笑むジキルに対してモニターの反応は美洋とは真逆の反応を見せた。そしてジキルは歌でも歌うように言う。
「世田谷の主婦、猫に娘と最近赤ちゃんができました。野球部でレギュラー落ちをしたてらくん。いつもいつも会社の上司の文句を書きこんじゃダメですよぉ! さてさて次はだれにしようかな? みーんな情報丸バレなんだよね!」
最初こそ馬鹿にするコメントが多かったがそれに対して次々に情報らしき物をグレーなラインで語っていくジキル。そしてしばらくすると美洋が止める。
「もういいよジキル。これがサイバネティックスハンターの力だ。どんな事であれ悪であれば見つけ出す事ができる」
それにコメントは阿鼻叫喚、そしてそれはスタジオ内でも同様だった。今の状況の異常性について声を上げたのはリーシャ。
「なんなの、どうやったのよ!」
リーシャにして分からないその妙技に対してジキルは頬を染めると嬉しそうに、勝ち誇ったような表情をする。
「この番組の放送画面に書き込める機能をハックして次々に悪口言っている人を逆探知していっただけだよ!」
理屈はリーシャも分かる。
だが、無数の視聴者に対して同時にこのジキルはそれをやってのけたという事実。
「貴女人間?」
「あはは! それが実は人間じゃないんだなー! ね? 美洋!」
それにはコメントも草をはやしていた。そう、ただの冗談にしか聞こえないのである。そしてリーシャも自分の小型端末を触り、同様の真似を見せる。それにはモニターコメントは美少女ハッカーのバトルだと表示されていた。
しかし、リーシャのその処理能力に驚いたのは他でもない、ジキルとそして美洋だった。
「リーシャ・ユビキタス。恐れ入った。まさか同じ事が出来るとはな」
息を上げ少し汗もかいたリーシャに対してジキルは息一つ乱していない。これが勝負なら結果は誰にでもわかるが、この凄さを理解しているのも美洋とジキルだった。
「ば、馬鹿にしてぇ!」
スタジオがカオスになってきたところで一旦司会が場をまとめて次に内容をすすめた。美洋達とリーシャが凄い事は十分に視聴者に理解してもらったところで、事件性がありそうな書込みを見つける。
それは汚職を繰り返し血税を私利私欲の為に使かった市議を裁きますか? 裁きませんか? という投票。
すでに投票は終わっており、裁くという事で決まったらしい。そして速報が入る、市議の乗った車が事故にあったという。
「なんという事態でしょう! 『帽子屋さん』アプリで行われている裁判ゲーム。スナークハントで事件が起きてしまいました! 皆さん、このアプリに関して今一度考えを改めていただけませんでしょうか?」
放送時間の兼ね合いもあり、司会はまとめたつもりだったのかもしれないが、視聴者達の意見は全て自業自得、死ねばいいというものであった。
司会も評論家も何も言えないでいる中、美洋とリーシャは冷静に判断を下した。
「ピノッキオ、事件現場と市議が運ばれる病院を調べて」
「了解」
美洋はそれを聞いて頷く。
「ジキル。市議の車を事故においやった原因を特定。そしてこの事件を起こした『スナークハント』を探せ。青をテレビ局の入り口に配置出るぞ!」
そう言って走り出す美洋とジキルを見てリーシャは「ずるい! 追うわよ! ピノッキオ」
モニターに写し出されるコメントの全てはカメラ追いかけろという物に変わっていた。美洋は入り口の誘導していた青に跨るとジキルに運転を任せる。すぐに事故現場へと走りもう既に警察が集まっていた。
「サイバーハントだ! 現場を見せてくれ」
警察官は敬礼をすると現場の公開を許可する。十分程遅れて車が停車し、そこからリーシャとピノッキオが下りてきた。
「ちょっと! なんなのよそのバイク、チートじゃない!」
「チートじゃない、俺が作ったんだ」
そう言いながら車が何処かから遠隔操作されている事を見つけた美洋。その美洋に人差し指を向けるリーシャ。
「水城美洋! 私と勝負しなさい! 今回の事件、犯人を捕まえた方が勝ちよ! いいかしら?」
「不特定多数の人間による犯行だとしたら、勝利条件はどうなるの?」
面倒くさそうに言う美洋の質問に対してリーシャは美洋を睨みつけると叫んだ。
「多く捕まえた方が勝者よ!」
めちゃくちゃな回答だが、分かり易い。それに美洋は頷いた。ジキルとしては美洋がこんな事を受けるとは思わなかったので少々驚いていた。
「じゃあ行こうかジキル」
「あっ、はい!」
ジキルの運転するバイクの後ろに再びまたがると市議が運ばれたであろうと病院へと向かう。テールランプを躍らせながらそれなりの速度を出して走るバイク。そしてインカムでジキルは美洋に聞いた。
「ねぇ? 美洋はなんであんな勝負とか受けたの? あーいうの嫌いでしょ? それともリーシャとかいう娘が気に入ったの?」
「あぁ、気に入った」
その言葉はジキルを焦らせるには十分なワードだった。運転が荒々しくなり、わざとギリギリまで車体を傾けてコーナーする。
「ジキル、無駄な運転はよせ」
「ふーんだ! 生身の女の子の方がいいんでしょ? だったらあの車に乗せてもらえばいいじゃんか?」
「ジキル、君は何を言っているんだい? あのリーシャとピノッキオは僕等と同等の仕事ができる。勝負だろうがゲーム方式だろうが僕の思う通りに動いてくれればそれは効率を生むじゃないか、なら付き合ってあげるのもいいだろう?」
その言葉を聞き、ジキルの運転が普通になる。そう、美洋という人間はそういう考えなのだ。効率がいいか非効率か……
だが……
「こんかいばかりは美洋のその考えに救われたよぅ」
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