夢と君


 空から舞い落ちて来たのは、一枚の羽根。

 まるで、天使の落とし物のようだ。


「人も、空を飛べたら素敵なのにね」


 あの日に見た、君の笑顔が甦る。


「ひょっとしたら、

 飛び方を忘れてしまっただけなのかも」


 おどけた調子で答えると、

 君は目を輝かせて感心していたっけ。


 あれから、どれほどの年月が流れただろう。

 いつまでも純心ではいられない。


 夢と君を失ったあの日、

 僕は心の中の羽根さえも無くした。


 高く、遠く、どこまでも、

 行けないことは分かっている。

 手品にタネがあるように、

 物事には、裏も限度もきっとある。


 掌へ収まった羽根を強く握ると、

 指先へ伝うのは

 羽軸の折れる生々しい感触。


 そうして耳には、

 夢と現実の境界を分ける音が聞こえた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る