五月のお題

あめの日


 雨は嫌いだ。


 濡れるのは不快だし、

 どんよりした空を見ているだけで、

 憂鬱な気分にさせられるから。


 私の心へ降り出したそれと重なり、

 悲壮感だけが増してゆく。


「全部、洗い流してくれたらいいのに」


 あの人の顔も、

 声も、

 これまでの記憶も。


 全て忘れられたら、どれほど楽だろう。


 傘を差して空を見ていると、

 不意に風が吹き抜けた。

 それはまるで、

 頬の涙をそっと拭い取るような穏やかさ。


「不思議だね」


 なんだかこの雨が、

 私へ同情してくれているように思えた。


 それならいっそ、

 あの人にだけ強く降り注いで欲しい。


 経験した事がない程ずぶ濡れにして、

 私の前から去ったこの日を、

 記憶に焼き付けてやりたい。


 雨の日には必ず、私を思い出せばいい。

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