10話 プロテイン、シェイキング!


「素蓋くん、シェイキストのテスト受けてきて」


 朝、ティフシーと朝食を食べていると、シュリカさんが唐突に言った。


 ツンと上を向いたシュリカさんの巨乳は、オレがこの世界で見た美しい光景の優勝候補だ!


 谷間が見えない上品さと、白ワイシャツをピタッと押し出しているエロさが、どこまでもロマンをかき立てる。

 

 シュリカさんの頼みなら喜んで引き受けるぜ!


「『シェイキスト』ってのは、プロテインを作る人ってこと?」


「そうよ。素蓋くんがシェイキストの資格を取ってくれれば、この店の宣伝をするときに『シェイキストが三人います』って書けるの。店の評判がほんの少しだけよくなるわ」


「三人?」


「はい! 私もシェイキストなんですよ!」


 ティフシーはスクランブルエッグを急いで飲み込んでから答えた。かわいい。


「試験は筆記と実技なんですけど、そんなに難しくないんです。素蓋さんならきっと一回で取れますよ!」


「そっか、それなら安心だな!」


 ティフシーが解ける問題なら、オレにも解けるだろう。


 ティフシーの成績はたぶん平均くらいだ。つまり、普通の中学生レベルだ。


 しかも、ティフシーの学校はスポーツジムなので、九割は体育だろうとオレは予想してる。


 きっと余裕だぜ!


「ちなみに、どんな問題が出るの?」


「そうね。例えば……」


 シュリカさんが淡々と答えた。


「『大腿四頭筋を構成する4つの筋肉は、外側広筋、中間広筋、内側広筋、あと一つは何?』みたいな問題よ」


「マジでッ!?」


 シェイキストの試験、そんなレベルなの?


 ケンブリッジ大学の入試問題かよ!?


「ふふっ、冗談よ。もっと簡単な問題だから安心して」


 シュリカさんは蠱惑的なスマイルで言った。

 

 クッ……完全に騙されたぜ!


「素蓋さん、私でも受かったんですから、大丈夫ですよ~!」


「ティフシー、ありがと。本当はどんな問題?」

 

「えーっと、私のときは、『たんぱく質はお腹の中で、何になるの?』みたいな問題でしたよ!」


 お、これならオレもわかる!


「筋肉だなっ!」


「ふふっ、残念。これは引っかけですよ! 正解は『アミノ酸』です! アミノ酸になったあと、筋肉になるんですよ~!」


「あぁ、なるほどね! 引っかかっちゃったぜ!」


 うん、このテストは落ちたな。


 たんぱく質がアミノ酸になるって、どういうこと!?


 人生で一度も聞いたことない! っていうか、シュリカさんの問題と難易度変わってない!

 

「素蓋くん、落ち着いて受ければ大丈夫よ。受験費用は出してあげるから、がんばってね」


「おーっ! ちなみに、もし落ちたら?」


「地下の牢獄で一生……いえ、特にペナルティはないわ。安心して行ってきてね」


「安心できねぇええええええええええええ!」


「ふふっ、冗談よ」


 シュリカさんの小悪魔ジョーク、心臓に悪いな! 


 蠱惑スマイルは魅力的だけど!


 ティフシーが「素蓋さん、本当に大丈夫ですよ! シュリカさんは優しいですから!」とフォローしてくれたので、オレはなんとか平常心に戻って、試験を受けに行った。



  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 試験会場について、オレは席についた。


「ねぇ、キミ。シュリカさんのお店で働いてる素蓋くん?」


 隣のスレンダーな美女がオレに話しかけてきた。


 白いワイシャツに、黒いエプロンのようなスカート。


 上半身は完璧にフォーマルで、下半身はメイド服みたいな可愛さだ。


 この格好には、オタク心を揺さぶられるものがある!


「そうだよ、素蓋だよ。君、店にきたことあるの?」


「うん、一度だけ素蓋くんを見かけたことがあるわ。私はクラリス。よろしくね」


「よろしく! クラリス」


 クラリスは睫が長く、優しそうな目をしてる。話しやすそうな子だ!


「クラリス、実はオレ筆記が苦手なんだけど、クラリスは?」


「私はシェイキストのアルバイトを長くやってるから、筆記の内容は頭に入ってるわ。よかったら、出そうな問題いくつか教えてあげるわ」


「まじで!? ありがとうクラリスっ! キミは希望の光だーっ!」


「フフ、おおげさね、ちょっとだけよ」


 クラリスはプロテインの種類と、効果的な飲み方を教えてくれた。シェイキストの試験ではほぼ百パーセント出るらしい。


 ありがたいぜ! これで少しだけ合格の可能性がでてきた!


「ハッハッハ! それでは試験を始めるぞ! みんな準備はいいかい? レディイイイイイイッッ! スタートォオオオオオオオオッ!」


 筆記試験とは思えないスポーツ系の号令で試験が始まった。


 よし、まず第一問目! 


『この部分の筋肉はなんて名前?』


 えぇええええええええええええええええええええ!


 筋肉の名前なんて一つも知らないぞ!


 図を見ると、ふくらはぎ辺りか?


 仕方ない。なんでもいいから、聞いたことのある筋肉を書こう!


 オレはとりあえず、こう書いた。














『ビフィズス筋』



 何か盛大に間違ってる気もするけど、ベストは尽くした!


 さぁ、次の問題だ!














『筋トレの『超回復』の意味を教えて?』



 さっきから問題文が小学生レベルだな! 内容は難しいのに!


 もちろんこの問題もわからないッ!


 オレはとりあえずこう書いた。














『筋肉がとても回復すること』



 ポップな問題文につられて、回答も小学生みたいな文になってしまった気がする。

 

 でも、仕方ない! 次だ!



  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 

 こうして、オレの筆記試験は惨敗だった。


 机に突っ伏したオレを、クラリスが慰めてくれる。


「大丈夫よ、素蓋くん。基本的なところだけ解けたなら、あとは実技試験次第よ!」


「ありがとう、クラリス。君の優しさは忘れない。オレはここでリタイアだ」


「もう。そんな落ち込まないで!」


 このテストはたぶんもう終わった。


 クラリスから教わったプロテインのところだけは解けたけど、他は一問も合ってない自信がある。


 問題文の意味すらわからなかったしな!


 ティフシーとシュリカさんになんて報告しよう。


「ハッハッハ! 結果発表をするぞ!」


 試験管のマッチョがテストをめくりながら、点数を読み上げ始めた。せめて0点じゃないことを祈るぜ!


「一位はクラリス! なんと、パーフェクトの百点だ!」


 おおっと歓声があがる。


 さすがクラリス、頭良さそうだしな!


「二位はビックル、セスク、ナターシャ! 九十四点! 三位はラウラ、ポンド、チャンドラー、九十点!」


 次々に名前が呼ばれていくが、一向にオレの名前が出てこない。


 最後の一枚をめくったとき、マッチョがテストを二度見した。


「オ、オーマイガッ……このテストが始まって以来、最低のスコアだ! これは本当にヒトが解いたものなのか?」


 そんなにひどいの!?


「ひどいぞミスター素蓋。残念ながらキミのスコアは……………………四十五点だ!」


「そんなに悪くなかった!」


 クラリスから教えてもらった問題の配点が高かったのかもしれないな。


 これならいけるんじゃないか!?


「まあ、プロテインの基礎問題だけは取れてるぞ! 次の実技試験の点数次第では、合格できる! かもしれない! 可能性はある!」


「おう! やってやるぜ!」


 マッチョが自信なさげなのが気になるけど、実技はプロテインをシェイクするだけだ! そんな酷い点数にはならないだろう!


「ハッハッハ! では、ルールを説明するぞ!」


 マッチョがタイヤのついたテーブルを引っ張ってきた。上には大小さまざまなシェイカーが乗ってる。

 

「シェイキストは『いかに腕の筋肉をアピールしながら振るか』がポイントなのさ! 重いシェイカーを選ぶと有利だぞ!」


 思ってたのと違うーっ!


『ダマにならないように上手く混ぜる』とかじゃないのか!?


「では、筆記試験の点数が高かった人から始めるぞ! まずはクラリス、ビックル、セスク、ナターシャ、ラウラ! シェイキングタイム、スタートォオオオッ!」


 五人は各自シェイカーを振り始めた。


「おぉっ!」


 五人の内、四人は巨乳女子だ!


 シェイクするとおっぱいが揺れ、Tシャツが楽しそうに踊る。


 南国の観光地で、サンバを眺めてるような気分だぜ!


 でも、一番輝いてるのは。


「クラリスーッ! ナイスシェイク! カッコ可愛いいぞ~!」


 クラリスのシェイキングはスマートで、可愛さもぶっちぎりだ!


 控えめな胸とお尻は、クラリスの優しそうな顔を彩るアクセントになっている。


 スラッと長い生足はセクシーで女の子らしい。


 めっちゃ可愛いな!


 野原に咲く一輪の花かよ!


「フィニィイイイイイッシュ! ハッハッハ! さすが筆記試験の上位者たちだ! 実技も文句なしだったぞ!」


 クラリスは嬉しそうな顔で、オレのところにきた。


「素蓋くん、がんばってね」


「サンキュー! クラリスのシェイキング、めちゃめちゃよかったよ!」


「ありがとう! 素蓋くんもきっとできるわ。できるだけ重いシェイカーを選んでね」


「アドバイスありがとう。でも、オレはオレのやり方でやるよ」


「えっ?」


 オレはマッチョに呼ばれて、壇上に上がった。


 シェイカーの重さは十キロから百キロまである。


 筆記試験で落ちたオレは、他の人たちより重い、六十キロ以上のシェイカーを選ばないと合格できないだろう。


 でも、オレにそんな重いものを振る筋肉はない。


「これだ!」


 オレは十キロのシェイカーを手に取った。


「なっ! さっき筆記で最下位だった彼が、十キロのシェイカーを選んだわよ!」


「ハッハッハ! あのボーイはもう諦めたんだろう! また次回挑戦すればいいさ!」


「いくらなんでも十キロは軽いわ。私より軽いわよ。彼、ふざけてるんじゃないかしら?」


 他の受験生たちからは、言われたい放題だ。


 試験管のマッチョが叫ぶ。


「泣いても笑ってもワンチャンスッッッッ! 準備はいいかいラストのボーイズ&ガールズ!? オーケーッ! レディイイイイイイイイイ! スタートォオオオオオオオッッッッッ!」


 オレはシェイカーを上に放り投げた。


 受験生達の視線が一斉に上を向く。


「えっ、彼は何をしてるの!?」


 誰かが小さく叫んだ。


 オレはすかさず、テーブルの上から別の十キロのシェイカーを手に取り、それも上に放り投げた。


「ワオッ!」


 受験生達からは悲鳴があがる。


 オレがヤケクソになったと思ったのか。


 でも、違うぜ!


 オレは六つのシェイカーを一瞬で上空にばらまくと、落ちてきたシェイカーをキャッチして、また上へ放り投げた。


 その動作を素早く繰り返していく。


 つまり、ジャグリングだ!


 オレは六十キロのシェイカーを振ることはできないが、技術(テクニック)で、十キロのシェイカー六個を同時に振ることならできる!


「な、な、なんという上腕二頭筋だぁああああああああああああ! 筆記試験最下位だったボーイが、過去最高にエクセレントなマッスルを見せつけているゥウウウウウウウッッッッッッ!」


「か、かっこよすぎるわっ! 彼はいったい何者なの!? プロのシェイキストじゃないの!?」


「腕だけじゃなく、指の筋肉まで完璧に鍛え上げているぞ! なんというパーフェクトボディだ! あれほど激しい動きをしてるのに、下半身もまったくブレていないッ!」


「なんてセクシーなのっ! 信じられないっ! 彼の腕の中でめちゃくちゃにされたいわっ」


 オレは最後に落ちてきたシェイカーをピラミッド状に積み上げて、フィニッシュした。


 試験会場を拍手が包み込んだ。


 よし! たぶん合格できたな!



  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 


 無事にシェイキストの資格をもらったあと、クラリスがオレに駆け寄ってきた。


「素蓋くん、おめでとう! 実技試験すごかったわ」


「ありがとう! その前に筆記試験を通ったのは、クラリスのおかげだよ!」


「いえいえ、どういたしまして」


 クラリスはオレに寄り添うように、肩をピタっと合わせてきた。


 ほのかに花のような香りが漂ってくる。


「素蓋くん、あの。さっきのシェイキング、とってもセクシーだったわ」


 クラリスはオレの耳元で、甘い声で囁いた。


「よかったら今夜、私の家に来ない? 私…………素蓋くんの……ドロドロした濃厚なの飲んでみたいの」


「!!!!!」


 その夜、オレはクラリスにプロテインドリンクを作ってあげた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る