第1回:「朽ちた神への聖謡譚(ファンタジア)」
「こづくり、しましょう?」
美しく華奢な少女を前にしてこんなことを言われてしまったらアナタはどうしますか?
今回紹介するのは作者:内田俊先生、挿絵:硯先生の描く異世界ファンタジーロボットもの小説『朽ちた神への
この作品は私のとても好きな作品で最初に紹介するなら絶対これにしたい!と思っていました。
さて冒頭にあったセリフですが、これは物語を読み始めると最初に目に飛び込んでくる一文なのです。
新しい小説を読むとき、それは知らないお店に入るときに似ている気がします。表紙やカラーページはお店の外観です。表紙に描かれた可愛らしいヒロインとそのバックに映るロボット、このおかげで一発でロボットもの小説なんだなって理解することが出来ます。(※世の中には表紙にロボットが描かれず派手な黒ギャルだけが描かれているロボットものもあったりします。いつか紹介したいですね)
表紙をめくると私たちを迎え入れてくれるのは主人公やヒロインの紹介、そして物語を彩る一幕を描いたカラーページです。ロボットものに限らずライトノベルにおけるこのカラーページ……なんでか分かりませんが肌色が多い気がします(笑)
そうやって作品にワクワクして目次を進めてページをめくると
「こづくり、しましょう?」
強烈な掴みです。私はこの一文に衝撃を受けました。
内田先生の秀逸な仕掛けに見事にはまってしまった私は「こづくり」に誘われた主人公同様に困惑しながら物語を読み進めてしまいます。そして主人公の回想が始まります。どうしてこうなった?、と。
【あらすじ】
主人公のマキト・メイフィールドは巨大な機械仕掛けの鎧「
失意のマキトはせめてもの土産話にと機鎧の基となったといわれる
王都の危機を前に誰かを守りたいのに機鎧を動かせない無力感に苛むマキト。そんなマキトに少女は「こづくり」を提案する。
出会って即こづくり。都会の女は何を考えているんだと動揺するマキトを他所になんと謎の少女は一方的にマキトの唇を奪ってしまう。すると聖骸は光に包まれて、先ほどまでの朽ちたゆりかごと打って変わり神々しい銀色の甲冑「クロウクルワッハ・ユリゼン」へと姿を変えた。こうしてマキトと謎の少女は伝説の聖骸ユリゼンの力をつかい、禍獣の撃破に成功する。
少女はいったい何者なのか? そして少女の語る「こづくり」とは何なのか?
伝説の力を手に入れたマキトの英雄譚がはじまる――
【個人的に好きなポイント①:世界観の説明】
ここからは私がこの作品の好きなところを書いていきたいと思います。
創作の世界では私たちの世界とは全く違う異世界を描くことが多々あります。
そのため作中の世界観や用語に関して読者に説明することも多くなり、手法は様々です。地の文で端的に記述したり、主人公に知識を与えるための教師や解説役のようなキャラに語らせたり、作品によっては巻末に資料を掲載して説明の一切をそれに任せてドラマの進行を優先するというものもあります。
本作は主人公マキトの一人称視点による話し言葉で物語が進むためとても読みやすいです。しかし世界観というのはその世界における一般常識のようなものでもあり、それを一人称の地の文で語ると「こいつはこいつ自身が分かりきっていることを誰にむかって説明しているんだ」という違和感のようなものが出てくることがあります。
しかし、本作はそれを「試験問題」という形で解決しています。筆記試験における記述式の解答よって作品の世界観を簡単に説明していますし、マキトの一人称という視点を一時的になくすことに成功しています。
試験内容のひとつ「魔力と呼ばれるものについて簡潔に述べよ」という問いへの解答についても後のマキトの魔力が少ない体質への展開にきちんと活きていくのも関心しました。
【個人的に好きなポイント②:ロボットのタイプと物語構成】
ライトノベルでは主人公の周りに様々なヒロインがいますが、この作品も同様です。このヒロインの存在が主人公機である聖骸の特徴となっています。
聖骸のコクピットはマキトとサブパイロットであるヒロインによる複座型なのですが、同乗するヒロインによって聖骸はその姿を変化させます。(ロボットものですとこういったタイプのロボがたくさんあると思いますが、皆さんは何の作品を思い浮かべますか? 私はこういったタイプのロボットの原体験が広大な宇宙で生殖器をかけて戦う傑作ロボットアニメからヴァ〇ドレッド方式と勝手に呼んでいます)
物語の構成としてマキトは自身やヒロインたちの抱えている悩みや葛藤と向き合い、それに対して彼なりの解答によってヒロインを救い、その絆の証として新しい聖骸の姿が顕現されるという分かりやすいドラマです。
【個人的に好きなポイント③:魅力的なヒロイン達】
やっぱりこれが大事です(笑) ロボットものなんだからロボ戦における描写も大事なのは理解していますが、物語の中心にいる花もまた大事なはずです!!!
彼女たちのパーソナリティや背景、主人公マキトとの心の交流によって見られるリアクションは読んでいて非常にいいものです。というわけで、この作品でのメインヒロインとも言える3人のヒロインについて紹介をしたいと思います。
【聖謡の巫女 ククル】
「フロってなに?」
王都の地下に保管されていた聖骸と共に眠っていた少女。
感情がなかなか表に出てこない彼女ですが、記憶がない故か無自覚な甘え上手なところはさながら猫のようです。そんな彼女に振り回されるマキトの奮闘(という名のイチャイチャシーン)は必読です(笑)
【鉄壁の監督者 レティシア・アブソリュート】
「しょ、しょうがありませんわねっ! センスはともかく、捨てるのもかわいそうだし、もらってあげますわ」
マキトとククルの監督役を任された名門貴族アブソリュート家のご令嬢。気位が高く、その態度は高飛車。そんな性格が災いしてか田舎出身のマキトとのファーストコンタクトは険悪なものとなってしまうのですが、一方でその誇り高い性格がマキトの認識を改めさせる結果に繋がることもあり彼女とマキトは友人になっていきます。
上にあるセリフのように彼女の性格は所謂ツンデレ……なのですが、彼女の魅力はそういったツンデレ発言というよりもマキトと関係を深めた後の「デレ期」に入ってからですね。彼女からマキトへの猛アピールを楽しんでください(笑)
【小さな整鎧士 ラニ・ロックスミス】
「あのね、あのね、仕方がないことなんだよ? わたし、機鎧がずっと好きでね、それでね、それなら機鎧のモデルになった聖骸も見たくなるのは当然だよね? でもね、それなのにね(略)」
夢破れたマキトが王都の地下で出会った異族ドワーフの少女。機鎧の整備・点検をする整鎧士となるため整鎧科を受験しにきた。幼い頃から機鎧が好きな彼女が聖骸に興味を持つのは当然なのですが、あろうことか立ち入り禁止なのにも関わらず忍び込むという小さな体と内気な性格とは裏腹に大胆なところがあります。
そんな彼女ですが機鎧や聖骸を前にすると機鎧への愛が全開となってしまい普段の引っ込み思案な「ラニ」から好奇心を満たすまで止まらない本性を顕わにした「ラニさん」になってしまいます。そして、そんなラニ『さん』の興味が聖骸の乗り手であるマキトに向けられたとき彼にはかつてない危機が訪れます(笑)
【まとめ】
以上で「朽ちた神への
それではまた次の作品紹介でお会いしましょう。
読もうよ、ロボットもの! 横内隆也 @haguruma
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