第19話 潔子
「潔、子…?」
「奈良塚、さん?」
どうやら突然の来訪者に本当の潔子も驚いている様子。ユメの後ろに突っ立っている潔子は、肩が丸まって俯き加減で瑛美を見る。状況が掴めていないようだ。
潔子はしばし迷ったあと、躊躇いがちに口を開いた。
「ソラさん…。あの、これはどういう状況か説明いただいても…?」
「ああ。いいぜ。けど、さすがに玄関で話す内容でもないから、とりあえず座らね?」
「ぼくはー?」
「ユメは部屋に帰ってもいいし、好きにしろよ。」
「はーい。」
ソラは軽く首を傾けて部屋の奥を指で示す。ビクッと肩を竦めた潔子は勢いよく頷いたかと思えば身体を翻して足早に向かう。軽やかな足取りで自室に向かうユメとえらい違いだ。
ようやく瑛美もゆっくりと部屋の奥へ向かった。
一本の廊下だったので部屋の奥が少し見えてはいたのだが、その全容に瑛美は驚いた。
普通のリビングだった。
元がファミリー向けのマンションなのだろう。ある程度の広さがあるリビングに白い清潔そうなカーテンが揺れている。大きなL字型のソファの前に置かれている大きなテレビには夕方のニュース番組が流れている。リビングにはイスとテーブルが並べてあり、モデルルームのような綺麗さだ。
しかし、その場にいる人間の数が異常だった。
老若男女問わず、たくさんの人間が、いた。
たくさんの定義はとても難しいけれど、少なくともこの部屋に住めるような人数ではないように、瑛美は思った。
そしてそのたくさんの人間の目が、全て瑛美に向いていた。
「…お邪魔、します。」
背筋に氷を入れられたような悪寒が走り、おのずと小声で挨拶をする。
そこで視線を背ける者や、軽く会釈を返す者とで別れたが、誰一人瑛美の挨拶に返事をする者はいなかった。居心地の悪さに瑛美の視線は下に向く。雰囲気の悪さに対してソラは何を考えているのか、何も言わなかった。
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