砕け散るアストロメリア
目の前にそびえ立つ王城は、曇り空の下で威圧感が凄かった。
輝は1人、商店街の方へ歩き出した。本当にどうしても近寄りたくないようだ。
確かに、思えば輝は、曇り空の日は機嫌も悪いしテンションも低いし、なにより情緒不安定だ。
まだ幼なじみの俺たちだから良いものの、他のクラスの生徒なんかが不用意に話しかければ一触即発、その日家に帰れると思わない方がいい。
「じゃあ、輝も離れたし……行くか。今何時だ?」
「ァー……っと、たっか、首いてェな……。ぁー、13時45分……だと思う」
「いい時間だな。よし、行こう」
俺たちは、王城に入る。
王城では、その日は何も無い日というふうだった。
執事やメイド達も、特段バタバタ動き回っている様子は無いし、城は静かだ。
当人の輝はどこにいるのか、俺は単体で探した。
自室には居らず、中庭で国王……父とティータイムの様だ。
『ブライト、勉強の方はどう?分からないこととかはあるかい?』
『ないよお父様!ぼく、お父様みたいに凄い国王にぜったいぜーったいなるんだ!』
『ふふ、そっかそっか。頑張るんだよブライト』
『うん!』
5歳の輝は、目を輝かせて父親を見ている。輝の父は、温和で上品な人柄の様だ。
今の輝は、腹黒で生意気で、冷酷だ。可愛い容姿とは裏腹に、やること成すこと遠慮もないし手加減を知らない。
もともとそういう奴なのか、この一件からこうなってしまったのか……。
優秀なだけに、他のやつからすればかなり近寄り難い。
『ブライト、この時期にはなんの花が咲くと思う?』
『?11月……ツバキとか……?』
『ああ、そうだね。この庭にある植物で、11月に咲き始める花は、キンレンカ、カンツバキ、アザレア、柊、フウセンカズラ、ユーフォルビア、プリンセチア、薔薇、アザミ、カレンデュラ、ストレリチア……他にもいろいろある』
『すごぉい……!あれ、でもお父様、あの花は?あの花は、いつでも咲いていますね?』
『ふふ、あれだけはね、特別な花なんだ。私が1番大切にしていて、ずっとずっと咲き続けている魔力の花。まぁ、アストロメリアなんだけどね』
『あすとろめりあ……ああ!昨日、理科の科目で爺に習いました、百合水仙……の事ですよね?』
『そう。目立たない花なんだけどね。しかも、開花時期は3月なんだ。……あれは魔力の貯蔵ができるアストロメリアで、ママが私のところに嫁いできた時に持ってきた花なんだよ。それからずーっと咲き続けてる』
『嫁いできた時……って、2000年前、ってことですか?』
『そうだよ、だからブライト……この城や私、他の使用人や家族に何かがあって、この城が寂れる時が来たとしても……あの花は大切にしていって欲しいんだ』
『……?は、はい!』
国王様は、この後自分の身に起こることが分かっていたのだろうか。
まるで、この先自分が居なくなっても大切にして欲しいと頼んでいるようだ。
ふと、城についた大きな時計に目を向けた。
時刻は14時。
目線を戻せばそこには……
ビクリと身体を震わせ、喉元にトランプが突き刺さった国王と、その吹き出た血を浴びて硬直している幼い輝が居た。
『……ぇ……?お、とう、……さま……?』
『か……ぁ……くっは、……やっ、ぱり、ね』
『と、父様?ど、どうしたの?なに、これ?父様?』
『……ぶら、いと……』
『なに?なに?』
『……上の…………槍に…………気をつけて……』
『と、父様なに?上の槍?なんのこと?ねぇ父様?父様!』
国王は、それだけを言い残すと、緑の光となって消え去った。
輝の真後ろにいた犯人、鮮やかなピンクの髪の毛の、同じ年くらいの少女。顔にはハートのメイクがしてある。
少女はその場を走り去り、次に王妃の部屋に向かった。
輝は、殺意の篭った目をして少女を追い掛けた。
少女は王妃を封印し、そしてそこで自我を取り戻したようだ。
『……ごめんなさい、国王様……王妃様、王子様……。ごめんなさい、ごめんなさい……こうするしか、ないの……』
少女はそう言うと、その場から消え去った。
その後輝が王妃の部屋に入ると、そこにはもう、飛び散った血液以外何も残っておらず、幼い輝はその場で崩れ落ちた。
……そりゃあ思い出したくないだろう、こんな場面。
曇り空を見るときっと思い出してしまうんだろうな……。
俺は、他のメンバーが集まる場所に戻った。
あの現場を、俺以外の誰が見ていたかは分からないが多分……ここまでショックを受けたのは俺だけだろう。
「……スキア?大丈夫?どうしたの?」
「輝……」
「……現場、見たの?」
「あぁ、……ガッツリ……。輝、お前さぁ……」
「なに?」
「……なんでもない、ごめん」
本当は明るいヤツなんだろ?……なんて、言わなくていいよな。余計なお世話だろう。
「さぁ、戻って話し合いしようか。やる事が増えて増えて仕方ない、整理しよう」
全員で輝の自室に戻り、全員で座り話し合う体制になる。
「まずは、ここまでの記憶を整理しよう。京都の4人は同じ犯人だったよな?」
「あァ。黒い髪の毛の、巫女装束の男の子だった。……多分、同い年なんだよな?アイツら」
「そのはずだな」
「あとは……えっと、天使の2人の方は、金髪の白いハットを被った、銃を沢山持ってた男の子だよね?」
「そうだね真。僕はちゃんと覚えてる……。多分あれは、シリウス・ガン・ロードだ。ウェポンズシティの領主の家系の一人息子が、同い年だったと思う」
「で、真は……大きなハサミ持ったフードの繋ぎの男の子やんね?」
「だな。あのハサミを見るからに、多分ステイショナリーズシティの悪魔だと思う。巨大裁縫道具はステイショナリーズシティの名物土産だからな」
「細かい顔は見えなかったから分かんないな……。輝の犯人は女の子だったな」
「……ハート・クイーンズクラブ。ナイトトランプシティの領主の娘だよ。……今まで見てきた感じだと、みんな誰かに操られてるみたいだね。けど、それは合意の上……。もっと調べる必要がある」
犯人の名前が分かる、分からないも有るが、その前に、そいつらが今何処にいるのかを突き止めなければ話は始まらない。
そして、今回ので黒幕が誰なのかは全員見当がついた。
「オレたちの家族を封印した黒幕は……」
「……確実に、サタンだね。僕とスキアの叔父。……って言っても、あんな叔父家族でもなんでもない。先代サタン、俺達の祖父は良い人だよ。でも、叔父はそれこそ昔の悪魔みたいに頭も固ければ悪こそ正義だと思ってる。母さんも、叔父さんの事は避けてるしね……」
スカイはそう言うと、ため息をついた。この黒幕をどうすべきか、もう分かっているからだろう。
俺もそのくらいは分かる。
相手が話をして通じる相手でもなければ、やっていることは''それ''に値する。
避けてる、縁を切ってる……それでも、血縁であることに変わりはないわけで。
「アイツが何をしようとしているのか、俺達はまだ分からない。それを突き止める必要もある」
「えーと?そしたらやることは……真の城の扉に入ることと、モノクローズハウスに行くこと……あとなんかある?」
「あぁ、なぁ、輝の父親が言っていた「上の槍」が何なのか知りたい」
「あぁ、確かに父上、そんなこと言ってたね。まぁ……どっかには書いてあるんじゃない」
輝はぶっきらぼうにそう言った。でもその態度も、あんな惨劇を思い出させる話題だ、仕方ないと今は思える。
俺は、父親の自室か書斎にあるのではないかと思い輝に尋ねた。
「なぁ、陛下の自室とか、書斎は?」
「あるよ。けど、父上自室には本を置かないんだ。あっても小説や漫画とか。書斎には本棚が有るけど……貴重な本とか、情報量の多いものは地下に隠してたと思うな。ボクはその地下の入口は分からない。教えてもらおうと思ってた矢先だったからね」
「そうか、地下か……。なら、その地下探さないか?」
「おっけー。でもその手間の前に、真の方に行きたいかなボクは。順序としてまず、真の城で、現在の状況を知ってからでも遅くはないよ。それから地下を探して、そしてモノクローズハウスに向かおう。このこと、社長にも言わなきゃいけないし」
「それもそうだな。じゃあその順序で行こう。まずは真の城な」
「うん。いこう」
そう言って、輝は立ち上がった。続いて皆立ち上がり、真の城へと向かうことになった。
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