第8話

 共産主義革命というのは悪巧みを企てた詐欺師とそれに騙された連中が数にものを言わせて行う体制転覆の極端なもので、一揆と違うのは交渉の一形態ではないということだ――いわゆる一揆はストライキと一緒で相手が要求を受け入れればそれで終わりだが、完全に政権を乗っ取るクーデターはそのときの大臣やその他の政府関係者を軒並み処刑してしまうため、そのあとで国家の中枢に収まるのが庶民ばかりになってしまう。言い方を変えれば、内政と外交のあらゆる諸問題にド素人の集団で対処することになるのだ。

 基礎知識も無く勉強する頭も無い連中が政権を握るのだから、まともに運営が出来るはずもない。

 中国で一九五八年に立案された第二次五ヶ年計画などがその好例だと言えるだろうし、最近のところでは二〇〇九年九月に発足した日本のリベラル政権などもいい例だと言える――上っ端から下っ端まで馬鹿しかいないという点ではどちらも共通だが、かの政権の閣僚は同じ人間の肩書が次々と変わっていた。

 複数の専門を持っているわけではなく、なんの専門も持たないためになにも出来ないからどれに就けても変わらなかったのだ――専門分野が無い人間ばかりだったからころころと人を入れ替えられたし、そして誰になにをやらせてもでたらめばかりだった。

 自民党一強時代はいわゆる族議員がずいぶんと批判の対象になっていたと聞いているが、ライとしてはそれがよくわからない――上がパワハラしか芸の無い能無しであるより、専門分野に関してだけでも十分な知識を持っているほうが官僚だって仕事をやりやすいだろうに。

 当時の中国も同様だ。第二次五ヶ年計画の一部としての大躍進政策はソヴィエト連邦の似非農学者トロフィム・ルイセンコの提唱したでたらめ理論を頭から信じ込んだもので、芝生のごとき苗の密植や種を二メートル以上も掘った深い穴に埋めるといった滅茶苦茶な農法を行った結果すさまじい凶作を引き起こしている――エルディアの反体制派が政権を簒奪したところで、実際の政権運営は当時の中国共産党とたいして変わりはすまい。つまるところ共産主義の目的は、当時の為政者を追い落として自分たちが甘い汁を吸うことだけだからだ。

 樹立した新政権の中に農民出身者がいたとしても、俯瞰的な視点から物事を判断して事態を解決出来るほどの能力を持つ者はいまい――専門的な教育を受けた現代の農業従事者ならともかく、この世界の文明レベルの農民では場当たり的でかつ的はずれな対処しか出来ないだろう。前代未聞の大飢饉のあとでは、なにから手をつけていいかもわかるまい。

 事態を改善するだけの知恵があるのなら、武力革命など考える必要も無い――ただ訴え出て策を進言すればいいのだ。それで実際に状況が改善すれば、わざわざ民衆を騙さなくても王なり地方領主なりに取り立ててもらえて、他国の王女を拉致したという犯罪歴や民衆を騙した詐欺師などという汚名レッテルではなく実績という輝かしい栄誉と名声をおまけにつけたうえで立身出世は成るのだから――アーランドで農務卿、現在空位になっている農政を担当する大臣にならないかという打診オファーを受けているライがそうである様に。

 プライドだけが肥大した愚かな為政者であれば訴えを無視して、それどころか殺してしまうかもしれないが、ジーク・ルグスは進言を聞き容れるだけの耳は持っている人物だった。

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