第33話 サクラの想い

 そう、それは紛れもない事実。ネコさんや村の住人の方々もそうだが、あの青年はサクラさんに思いがけない影響を与えていた。元々、サクラさんは淡々と務めを全うする、どちらかというとクール系美少女。おいそれと笑顔を見せる様な子ではなかった。それが、青年に見せるあのテンションの上がり様ったらない。


「私も、今では驚いています。まさか、あの人のことで、自分の頭がいっぱいになるなんて。はじめはかわいそうな人と思っていましたが、色々と話をしたり身の上話しをお互いにしたりしていくうちに、だんだんとあの人が抱えているものが見えてきた気がして。なんだか親近感を覚えてしまったのが、いけませんでしたね」


 理知的に語るサクラさんは、私に微笑みを向けている。


「あの人は、生き返ることに恐れを抱いていました。生きていた時に、随分辛い思いをしたようで…。でも、そんな経験をしているからこそ、あの人は私のことを慮ってとても大切そうに接してくれました」


「彼が優しいのは間違いないですね。それは同感です。して、サクラさん…。やはりあなた、まだ未練があるのですね。人としての生に」


 私はサクラさんに、またしても直球で問いを投げかけた。聡明なサクラさんは、すでに私の脇の甘さをこれでもかと看破し、2人を見守る私を見て見ぬふりをしてくれていたのだ。もはや腹を割って話すのがよかろうというもの。


「…はい。ある時、思ってしまったんです。あの人ともっと一緒にいたい。できるだけ長く…。そう思ってしまったんです…」


 サクラさんは俯き、顔がみるみる翳りを見せていく。


「あの人と一緒に仕事したり、遊んだり、時には何もせずに村の景色を眺めて見たり。そんな時間がずっと続いてくれたらいいなって…」


 サクラさんの肩がほんの僅かだが、小刻みに震えている。


「あの人が、いてくれたら…私はどれほど幸せか…。でも、それではいけません。あの人は私と違って、まだ生きる機会が与えられている。なのに私は願ってしまいました。あの人と…ずっと一緒にいたいと…」


 顔を上げたサクラさんは、顔を赤くし、涙を流している。


「私は、あの人にもう一度生きてもらいたい!生きているからこそ出来ること、味わえることがあるのだから、あの人にはそれを経験してほしい!生きて幸せを噛み締めてほしい!でも…私は自分のことしか考えられなかった…。生きなさいと、言えなかった…。この村に留まって欲しくて…」


 ボロボロと大粒の涙を流しながら、サクラさんは私に縋りつき泣きじゃくっている。私はどうしたらいいのですかと、行くべき道を求めている。

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