第32話 続、私は上役である

 元来、この村で迷える亡者を霊界に導くのは、八百万の神々の仕事。もちろん、神様だからと言って、一柱の神が何でもかんでもできるわけではない。八百万の神様にだって役割があるのだ。そして、この村のような場合は、私のように導きを得意とする神々が本来その役目を務めるもの。


 だが、世界は常に生成発展し、拡大していく。人が生まれ増えていくように、神もまた、増えていく。増える速さは、もちろん人のような爆発的な増え方ではないけれども、転生を重ね、魂を磨いた魂が少しずつ霊格を高め、いずれ神へと成る。


 サクラさんも、はじめは自分自身が不慮の死を遂げた身であったが、その心根の優しさゆえに、神の仕事の手伝いを引き受け、その働きぶりや霊格の高さから多くの神の目に留まることとなり、いわば神様候補としてこの村をまとめ上げることになった。それが300年前の出来事。


 そんな彼女だが、ぼちぼち神に成っても良さそうな塩梅とはいえ、前世ではうら若い乙女の身で亡くなったものだから、やはり年頃の乙女ならではの願望もあり、それが神に成る妨げとなっている。それは、すなわち恋。


 純朴で可愛らしいサクラさんの亡くなる前の夢は、お嫁さんになること。最愛の男性と出会い、結ばれることに恋焦がれていた。しかし、彼女の真面目さや責任感の大きさゆえ

出会いに恵まれることはなく、というか、そもそも素敵な男の子と出会う機会もない環境であったので、彼女はずっとその夢を抱き続ける他なかった。そんな彼女に突然の転機が来たのが、ほんの少し前。件の黄泉帰りの青年との出会いだった。


 珍しくテンションが上がるサクラさんの様子を影からネコさんと観察していておんやぁ?と思って生暖かい目で見守っていたのが、あれは間違いない。サクラさんは、あの青年に懸想しているのは間違いないだろう。


 以上が、私、こと、導の神によるサクラさんの考察である。


 さて、答え合わせと行こうか。なるべく当たり障りのないように、遠回りに少しずつ核心に迫っていくように、サクラさんの胸の内を聞いていきましょう。


「サクラさん、あの青年のことが気にかかるのですか?」


「…随分と直截に尋ねられるのですね、上役さん」

 

 あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛しまった!気になりすぎてついど直球に聞いてしまった!これはいけない!神としての沽券に関わる!なんとか取り繕ろわねば!


「…あなたの顔を見れば分かります。何か悩んでいることに」


「ずっと、私と彼の事を見守ってくれてましたよね」


 バレてるぅ!全部お見通しだった!


「まぁ、そのぉ…ねぇ…。年頃の2人だから、仲良くできてるかなぁって…」


「楽しそうに見てましたよね。たまにネコさんも一緒に覗いてましたけど」


 いけない!これじゃあ私はただの出歯亀みたいじゃないですか!


「そりゃ心配にもなりますよ。あなたは亡者とはいえ、神の仕事を手伝うような霊性の高い子。おまけに色恋なんて気にしませんみたいな澄ました顔で今までいたのに、そんな子があの青年に会ってから雰囲気全然違っていたんですもの」


「ははは。そこは、私も隠しきれませんでした。お恥ずかしい」


「恥ずかしくはありませんよ。ただ、私は嬉しかったんですよ。この村でサクラさんが働き出して、あんなに素敵な笑顔を見せるようになったんですから」

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