第31話 私は上役である。
私は上役である。名前はあるが、あまり知られていない。
というのも、私が村へ行くと、大概サクラさんもネコさんも、私のことを『上役さん』と呼び、村の住人達にもそうやって紹介するるので、上役さんが名前として定着してしまった。おまけに、あの村に辿り着く方々はこの光る玉は上役と呼べば良いのか、とあまりに素直に受け入れるもんだから、私の名を知らないままでいる。なんなら、上役が名前だと思っている節もある。けしからん話だ。
とはいえ、彼らに非があるわけではないし、正直そんなに気にしていないが、私の同輩やより高貴な方々は、ありがたくも私の名を呼んでくださる。
導きの神、シルベと。
元々、高貴なる
かつてはいい意味でざっくりと人生を導いてもなんとかなっていた古代に比べ、導くものが人生という主語がでかい物事から学生の進路から旅行の道筋に至るまで多岐に渡るのが現状である以上、より青人草のために精妙に導くためには、導く神もより専業化、高度化していなければならない。時代はタイパコスパである。
不祥、シルベはその眷属として万民とはいかずとも、その
そんなわけで、私は今、姫神村の上役さんとして迷える魂達と日々向き合っているわけだが、今回はだいぶ稀な事案が勃発中…。死ぬはずの人間が黄泉返ることができるようになり、けれども当の人間は黄泉返りに恐れをなすという状況。
ここまで不測の事態となっては、サクラさんには荷が重い状況になってしまった。こんな時こそ、上役の出番!我が利益は導くこと。これでもかと神徳を授けてくれよう!
とはいうものの、今回は本当に異例な事態。前例がないわけではないが、数百年ぶりのこともあって、内心どう導いたものか頭の中ではいまだに様々なアイデアが去来し、対応を決めかねている。
現に、今、私の膝の上に頭を埋めているのはサクラさんその人だ。心が強い子ではあるが、時々こうして私の膝で泣くことがある。例え、数百年経とうとも、彼女のこうした可愛いところは変わらない。私はそっと頭を撫で続ける。
「上役さん、ありがとうございます。だいぶ落ち着きました」
「そう。それはよかったです」
彼女は涙を拭いながら、私に向き直り、正座して頭を下げた。
「大変失礼しました。ご迷惑ばかりおかけして申し訳ありません」
「とんでもない」
「それにしても、久々ですね。上役さんが人の姿をしているなんて」
「そりゃ、こんな可愛い子を慰めるのに、光の玉では頭を撫でてあげられませんからね」
そう、今回は久々にサクラさんの為に人の姿を顕している。なんでかと言えば、そりゃもちろん、彼女の頭を人の手で撫でてあげたい。ただ、それだけだ!
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