第29話 続、祖父母
「あなたがこの村に来て、しばらく滞在することが決まった時、上役さんは直々にお願いに行ったの。どうかそばで見守ってあげてくださいと。その時は、ただ様子を見るだけで十分だったはずが、村での生活に慣れていけばいくほど、あなたの魂の尾は細くなっていったの。その時からお2人はそっと魂の尾が切れないように繋ぎ止めてくれていたけど、多分ネコさんの一件で感情が大きく揺さぶられたことで、かろうじて繋がっていた魂の尾が切れてしまったんだと思う。それを、あなたのおじいさまとおばあさまがこうやって今も繋ぎ止めてくれている…。今は、そういう状況なの」
愕然とする。俺がのうのうと村で過ごしている間も、俺のじいちゃんとばあちゃんは、ここで耐えてくれていた。俺が生き返れるようにと。
「どうして…どうして誰も教えてくれなかったんだ…」
怒りとも悲しみとも分からない感情に、
「落ち着いて…。これは、あなたのために…」
「やめろよっ!」
俺の体に触れようとしたサクラの腕を、力任せに振り払う。
痛い。そう小さな声が聞こえた時に、今度は後悔が胸を蝕んだ。サクラは怯えながら俺を見て振り払われた手を庇っている。
「坊、すまない。私達からお願いしたんだ。サクラ殿は悪くない。坊に時間を与えてやりたかったんだ。大事なことだからこそ、坊にしっかり考える時間を用意してあげたかったんだ」
「そんな…。そんなこと言われても、これじゃあ…。俺が生き返れば、済む問題じゃないか。なんで2人まで苦しまなきゃいけないんだよ」
そうだ。俺が、生きることに恐れを持たなければ、臆病にならなければいいだけのこと。今すぐ、生き返れば、2人は解放される。頭では理解している。だが、足が動かない。言うことを聞いてくれない。
「じいちゃん、どうしよう…。足が動かない…動かないんだよぅ…」
情けない。まったくもって情けない。生き返ろうと思っても、生きていた時の苦しみが泡ぶくのように湧き上がり、煩悶する。
「坊…私達はずっと見ていたよ。随分と辛かったろう」
「…辛かった。がんばっても、うまくいかなくて…みんなが当たり前にできることも、俺はうまくやれなくて…」
「坊の苦しみは、坊だけのものだ。そこに比較は必要ない。ただ辛かった、苦しかった。それでいいんだよ。生きることは、険しいものだ。嫌になることもあるさ。だから、あの村に留まりたい気持ちも、よく分かる」
幼い時から何度も受けた、あの優しさに満ちた眼差しに、俺は悟った。2人は、俺に生きるだけではなく、死ぬ選択肢も用意してくれていることに。俺の好きにしていいと。その答えを決めるために、2人はこうして苦痛に耐えてまで魂の尾を繋ぎ止めてくれていたのだ。
「だがな、その前に私たち以外にも、坊のことを思っている人達がいることを思い出してほしい。すぐに、ここへ来る」
ガラリと病室の戸が開く。そこには、くたびれ果てた様子の両親がいた。
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