第28話 祖父母
「サクラってばよ…。俺の魂の尾を、誰かが掴んでないか?」
「…彼の方達に、触れてはいけません。話しかけてもいけません」
「でも、いいのか?ガッツリ握られてるように見えるけど」
(サクラ殿。どうか、姿を現し言葉を発する許しを…)
突然、声もしないのに、頭の中に誰かの声が聞こえた。サクラも聞こえたようで、目を見開き、声に耳を傾けている。
(シルべ様が、あなた方の後ろで、許しをお出しになりました。サクラ殿、許しを)
どうやら、声の主はこの目に見えない方々のようだ。後ろを振り向くと、外の赤い船で待機している上役さんが、光の玉から細い光の腕を生やし、大きな丸を作っていた。宙で鞠のように跳ねながら…。
サクラはそんな上役さんを見てホッとしたらしく、一息吐くと、許しを出した。
(感謝いたします)
言葉と共に、姿が現れていく。腕の先から少しずつ胴体へ。さらに頭部や足も鮮明になっていく。驚いたことに、俺の魂の尾を掴んでいたのは、2人だったことに、ここでようやく気づく。そして、その正体も。
「坊…。大きくなったな」
俺のことを坊と呼んだその人は、何年も前に亡くなった祖父であり、その隣でおっとりと笑う人は祖母だった。
「じいちゃん…?ばあちゃん…?」
驚くあまり、声も出ない。突然現れた祖父母。その懐かしい声、優しい眼差し。まじまじと2人を見つめているうちに、涙が溢れて止まらない。もう2度と会えないはずの2人とまさかこんなかたちで対面することになるとは。
「すまんな、坊。今手が離せなくてな。それでなければ、昔みたいに抱き抱えてやりたいくらいだ」
「あなた、およしなさいな。この子はもう立派なんだから相応しいやり方で可愛がらないといけませんよ」
生前の和やかな2人の会話だが、どこか余裕がない。俺に目をやり、声をかけても、その手は魂の尾を掴んで離さないでいる。
「すまんな、私たちにはこれが精一杯だ」
サクラも俺の体に近づき、魂の尾をしばらくじっと見つめていると、あぁ、と小さく声を漏らし、口を手で押さえる。
「サクラ殿、気づきましたか。ご覧の通りです。明日の日の出まではなんとか持たせたいですが」
「明日の朝まで、どういうことだよ、じいちゃん…」
祖父がうなだれた先の視線にある魂の尾を、改めて見る。
「えっ?これって、まさか……」
祖父母は穏やかな顔を崩さないでいるが、明らかに何かを耐えている様子の理由が分かった。俺肉体から伸びてきているはずの魂の尾が、縮まり肉体の中へ消えようとしている。
そうか、俺の魂の尾は、切れてしまったんだ。
だが、2人はそれを留めている。俺の死が確定しないように、必死で俺の魂の尾を繋ぎ止めてくれていたのだ。
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