第27話 対面
「すいませんねぇ…いつもこう、色々と急かしちゃって…」
上役さんは何も悪くないだろうに、深々と光る玉がぺこりとお辞儀する。
「いやいや、こちらこそ、なんか色々とすいません」
挨拶にもならない挨拶を交わしつつ、上役さんは船を出し、赤い船は、姫神山の麓の街へと目掛け、宙を飛行して行く。かなりの速さのはずだが、やはりここでも物理現象は無視されていた。空気抵抗は感じられず、速度を出しても重力すら全く感じない。まるで、映画でも見ているように、街の景色だけが流れ、あっという間に麓の大きな病院へと着いた。
俺の体はこの病院へ運ばれた様子だが、一体どの部屋にいるのか。病院の中にいる人たちは、俺たちが乗っている赤い船に気づく素振りも無い。病院の壁面をつたうように飛行しているが、誰1人として気づきはしない。
船はとある病室の窓側につけられた。船上から病室の中を覗き込むと、そこには死んだように病室のベッドで眠っている、俺自身の姿が目に映った。
「この部屋ですね。サクラさん、後は任せましたよ」
「はい、承知しました」
サクラは俺の手をぎゅっと握ったかと思うと、船上から飛び出し病室目がけて飛び込んでいく。ここでも、重力の影響は受ける事なく、風船が弧を描いて落ちていくかのようにサクラと俺は宙を舞いながら病院の壁へと迫る。
反射的に、壁にぶつからないように空いている手で身を守ろうと構えるが、これまたぶつかる事なく、壁をすり抜け病室の中へと入り込んだ。あっ!と声を漏らした自分が恥ずかしくなるほど、呆気なく病室に入ったはいいが、いよいよ、眠れる自分自身と対峙する。
点滴や呼吸器に繋がれながらも、一見すると穏やかに寝ているように見えるが、こうして魂が抜けている以上、俺の体はただの肉の塊と言うべきか。実際、かすかに呼吸をしているのは分かるが、生気が全く感じられない。機会的に生命を維持している有機物。そんな気色の悪いものに見えてしまう。
「見てください。あなたの肉体の頭頂部です」
サクラに促され目をやると、俺の体の頭から、銀色の細い糸がわずかにゆらめきながら俺に向かって伸びている。確かに、今こうして見ているだけでも、何かの拍子で切れてしまいそうなほどだ。というか、ほんとに切れかけてないか、これ?
目を凝らし、さらに近くで見ようと一歩前へ踏み出そうとするが、すかさずサクラに止められた。それも、今までにない強い力で。
「どっ、どうしたのサクラ?」
「それ以上…近づいてほダメ」
俯きながら、か細い声で答えるだけで、なぜ近づいてはダメなのか聞いても、サクラは黙ったままだった。何か近づいてはいけない理由があるのは分かったが、こちらとしては釈然としない。目を凝らし、改めて自分の体から伸びる魂の尾を見る。
あっ。
気づいた。魂の尾が、握られている。
姿が見えない何かに、握られている。
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