第26話 慰めと癒し

 場所もところも憚らず、咽び泣いた後で、はたと気づく。


 気まずい。非常に、気まずい。本来であればカッコつけていたい相手に、あろうことか考える上で最悪の情けない姿をこうも晒してしまった己に絶望して、顔すら上げられない。


 だが、サクラといえば、相変わらず優しく頭を撫で続けてくれているから、ついもう少しこのままでいたいと思ってしまい、なかなか立ち上がる踏ん切りがつかない。


「そろそろ、大丈夫じゃない?」


「あっ、ハイ。立ちます」


 あやす様な、あるいは、おどけた様な口調で促され、ようやく俺は立ち上がる。腕で涙を拭きながら、情けない顔でサクラとようやく向き合う。


「ネコさんが、申し訳ありませんでした、って謝ってたよ。今、上役さんからもしっかりとお説教してもらってるところです」


「…そうか。なんだか、悪いことしたような気がする」


「あなたは悪くないでしょ。ネコさんにしては、手順も踏まず、随分短絡的な行動をしちゃったわけですが…。どうか悪く思わないで上げてください。あの人も、本当は奥さんの元に早く行きたいから、あんなことを言ってしまったの」


「…ネコさんにも深い事情があるってことだよね」


「あなたのそういうとトコ、いいよね」


 おどけるサクラに、どれほど救われたか分からない。サクラに手を引かれ、また家路につく。これじゃまるで、ボロ泣きした後に、親戚のお姉さんにあやされながら帰る小僧じゃないか。女の子と手を繋いで帰るなら、もっと男である俺がリードしていたかったのに。


「実は、上役さんからも話があるってことを伝えに来たんだ。あなたの体の事で、また状況が変わったみたい。上役さんも、船を用意してこっちに迎えにきてくれるって」


「俺の体に、何かあったのか?」

 

 俺の体の状態については、いつでも蘇生できる、という話だったはずだが…


「単刀直入に言うとね、肉体の魂の尾が、切れかかっているらしいの。あなたの魂がこちらにあるのが原因かもって、上役さんは言ってたけど、万が一のために、一度体の様子をあなたにも確かめてもらいたいの。ほら、噂をすれば、上役さんが来たよ」


 視線を上げると、神社やお寺の彫刻で見るような絢爛な赤い船が宙に浮き、上役さんも船の上からこちらに大きな声をかけてきた。


「さぁさ、行きますよ!早く乗り込んでください!」

 

 事態は急を要するはずだが、俺の頭はこの事態を受け入れきれず、どこか人ごとに感じてしまっている。頭の中では、生きるべきか死ぬべきか。その疑問だけがずっと頭の中をぐるぐると回り続け、上役さんの船に揺られ、俺の体がある病院へと飛行していく。

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