第23話 続、男同士の話

「深い山間の小さな村が、山津波に呑まれ全滅。だが、災害は自然のもの。それは仕方ないにしても、問題は山津波にあった村人達が、半ば地縛霊化してしまったことなんですよ」


「それって、誰も村に帰らなかったり、慰霊もされなかったってことですか?」


「再建など願うことも叶わない、酷い有様な上、生き残りも僅かとなれば、打ち捨てられたとしても、致し方ないとは思います。それゆえに、この村の住民達のほとんどがあの世に渡れず、この土地に縛られつつありました。そんな時、現れたのが、上役さんでした。当時は、人の姿で現れることが多く、それは歴史ドラマに出てくるような、美しい姫君のようなお方でした」


 光の玉の上役さんが、脳裏によぎる。俺からしてみれば、ひょうきんでよく喋る、根が明るく面白い光る玉、くらいにしか思っていなかったが、正体は大和撫子というわけか。意外だ。


「上役さんは、死を受け入れた村人から順次霊界へと送り届け、未だ死を受け入れられない私たちの面倒を見始めました。これが、この村が死して迷う魂を受け入れ霊界への旅立ちを支えるこの村の始まりです。1人、また1人と霊界に旅立つ中で、私達はあることに気がつきました。見知らぬ村人が増えていたのです。そう、まるで引き寄せられるように、この世を彷徨う魂達がこの村に入ってくることが分かったのです。多くの迷える魂がこの村に集まった結果、上役さんと繋がりのある霊格の高い方々が応援に来てくださりもしましたが、サクラを筆頭に、村の有志達が上役さんのお手伝いをすることにしたのです」


「その…、それはつまり、自分のことより他人を優先したってことなんですよね。すごい…サクラやネコさんは大昔からそんな凄いことをしてたんですね」


「とんでもないですよ。私なんか、初めは妻に半ば無理やり手伝わされた様なものでしたよ。この村に迷う人は、大概いい人でしたが、でも、いくら困ってるとはいえ、私達だって不幸にも災害に見舞われた身。自分たちの事を優先してもいいのではないかと、妻と散々揉めてました。でもね、その度妻は、サクラを指差して言うんです。あんな小娘さえ一生懸命働いているのに、私たちだけ先に行けるかと」


「なんか、奥さんの言いたいことがわかる気がします。サクラって何事にも一生懸命ですし、よく気を遣って動きますもんね」


「えぇ、そうなんです。あの子はいい子なんです。とても、いい子なんです」


 ピカピカのネコさんの後頭部に映る俺を見つめながら、語り部と化したネコさんの話に聞き入りつつ、俺の頭の中ではサクラの日常での振る舞いが断続的に思い出されていた。


 サクラは誰に対しても優しく丁寧に接していた。こんな聖人みたいな子がいるのかとずいぶん感心したものだが、あの姿は慈愛という言葉が人として顕現したと言っても差し支えないほどの人物だと俺は思っている。だが、サクラの過去にこれほど壮絶な体験があったとは…。もう300歳は超えているのかぁ…。


「だからこそ、君にお願いしたいことがあります。聞いてもらえますか?」


 いよいよ、本題が来る。きっと何か重大な話があるのは明白だ。俺は息を整え、後頭部に映る俺を見つめ、ネコさんの次の言葉を待つ。


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