第22話 男同士の会話
ネコさんのペダルを漕ぐスピードに合わせて、俺もペダルはを漕ぎ、空へと上がっていく。わずかに抵抗のようなものを感じるが、走る感覚はそのままに、軽々と高度は上がっていき、あっという間にいつもの見回りする高さまで上がってきていた。
「どうですか、乗り心地は。たまには自転車もいいでしょう?」
「えぇ、久しぶりですよ、自転車に乗ったのは。こんなしっかりした二人乗りの自転車は初めてでしたけど」
光り輝くネコさんの後頭部に映る、俺自身に答える。
「すいませんね。どうせなら、サクラと一緒のほうがよかったでしょう」
「いやっ…、それは…、まぁ…」
「ははは。正直でよろしい。そんな正直な君に、実は話しておきたいことがあるんだ。サクラのことなんだがね」
「‼︎………はぃ…」
光り輝くネコさんの後頭部に映る、俺自身に答える。さっきよりずいぶん目が死んでいるように見える。そもそもの話だが、ネコさんとサクラの関係は、いかなるものなのか。適度な距離感といい、話仕方といい、同僚の域を出ないとは思うが…。
「実は、言う機会がなかなかなくて君に伝えていなかったことがある。サクラは…私の姪なんだ」
「なんと⁉︎ご親戚だったんですか⁈」
突然のカミングアウトに驚きが隠せない。サクラとの距離感から、てっきり職場の同僚くらいの間柄かと思っていたら、まさかのご親族とは。
「サクラとは、この村で一緒に働き出してもう何年になるかな…。かれこれ、300年くらいはたつかな?」
「3…百…。えっ、そんなに働いてたんですか?」
更なる驚きに、返答もあさってな方向でしか返せない。突然、何をカミングアウトしてくるかと思ったら、一気にぶっ込んでくるこの感じ…。何やら真剣な話の空気へと変わっていくのがひしひしと感じる。
「もともと、この村はどこにでもある普通の村でした。ところが、近くの姫神山で大きな山津波がおきて、たちまち村は山に飲まれてしまってね…」
「山津波…って、土石流のことですか?」
「最近ではそう言うらしいね。酷いものだったよ。生き残りはわずかで、難を逃れた村人は近隣の村へと移ったものの、村の再建はとても叶わなかった。そのまま、この村は放棄され、今では完全に山へと還った。君は、姫神山に滑りに来て、思わなかったかい?ずいぶん辺鄙な土地だと」
「確かに、街からのアクセスは、正直悪いですね。山深くて、雪の量も質も文句無しでしたけど、アクセスの悪さで、いまいちスノーボーダーも寄りつきませんし」
「そうだろうね。秘境とも呼ばれる奥地。姫神山は君が雪崩にまき込まれたまさにあの場所が、かつて村があった場所だ」
「…そうだったんですか」
ネコさんの昔話は続く。
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