第21話 報せ
サクラの家に着くと、いつものようにネコさんが出迎えてくれていた。ネコさんは、毎朝誰よりも早く着いて、いつも出迎えてくれる勤勉で優しい人だ。
「おはようございます、ネコさん」
「おはようございます。今日もがんばりましょうね。サクラですが、今日は予定があって上役さんと出かけているので、今日は私と見回りに行こうと思います」
残念だ。今日もサクラに会えると思っていたのに。だが、珍しい。サクラが仕事に現れず、上役さんと出かけるなんて。というか、村から出れたのか、サクラは。
「珍しいですね。2人が一緒に出かけるなんて。出張ってやつですか?この村から出ることもあるんですね」
「えぇ、たまには外の様子も知らないといけませんから。半分仕事で、半分休みみたいなものです」
「修学旅行みたいなノリなんですかね?でもまぁ、半分仕事で半分休みってのは、普段の俺たちもそんなもんじゃありませんか?」
「まぁ、それは言われてみれば確かに」
2人して顔を見合わせ、笑いが出る。ここ最近は、ネコさんともずいぶん距離が縮まったと思う。こうして軽い気持ちで話せるのだから。
前はネコさんの顔の傷やスキンヘッドからどうみても堅気には見えなかったが、話す機会が増えるとなんてことない、ただのいい人だったというオチだ。
「せっかくの機会です。今日はこれで一緒に行きませんか?」
ネコさんはぽんぽんと自転車のサドルを叩いている。が、今日のママチャリはいつもと様子が違う。サドルが…サドルが2つある。
「今日は男同士、仲良く2人なりの自転車で行きましょう」
ネコさんの期待に満ちた笑顔にたじろぎながら、俺は逡巡した。いくらなんでも、ダサい。誰がどうみてもダサい。そもそも、男と2人で乗りたくない。
だが、漫画でしか見たことないような、ちゃんとした二人乗りの自転車が、目の前に用意されてしまっては、非常に断りづらい。
「いやー…。俺、自転車とかあんまり乗らないし、今日もボードで行きますよ」
「いいじゃないですか。たまには普段乗らない乗り物に乗るのも面白いと思いますよ」
「えゃぁ…ペースとか、多分迷惑かけちゃうと思うんで…」
「行きましょう」
「…はい……」
あえなくネコさんの迫力ある笑顔に押し負けて、隠して強面のスキンヘッドとの空への二人乗りがここに敢行されることが決定された。今朝の晴れやかな気持ちはどこへいったのやら。目の前には、磨き上げられたかのような見事な坊主頭に映る、情けない俺の顔が反射していた。
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