第18話 サクラ、スノーボード入門
俺はサクラさんと共に飛行し、スノーボードができそうな斜面を空中から探してみることにした。村は山で囲まれているので、目ぼしそうな斜面はいくつか見つけられたが、木が鬱蒼としていて、滑ることはできなかった。
そこで、ふと気づく。斜面が無ければ作ればいいと。サクラさんを誘導し、我が家のログハウス前に広がる原っぱへと誘導し着陸する。
ここ夢幻の世界だから許されるゲレンデ造成の仕方があった。通常であれば大量の雪が必要になるから、現実ではあり得ない作り方だが、想像したものが現実化するのであれば、実際のゲレンデ整備の過程は全て省けるし、雪の量の確保も考える必要がない。完璧に整備されたゲレンデをイメージすればいいだけだ。
俺は目を瞑り、集中して最高のコンディションのゲレンデをイメージした。綺麗に踏み固められ、斜度も初心者に最適な緩斜面で、まっすぐ平で広い、一枚バーンを。
隣にいたサクラさんが驚く声が聞こえる。目を開ければ、イメージした通りのゲレンデが目の前に広がっていた。成功だ。というか、本当になんでもありだな、この世界は。
「凄いです!これがゲレンデですか?初めて見ました!」
「その興奮、よく分かりますよ。ゲレンデって圧倒されますよね、初めて見ると」
サクラさんの興奮もさることながら、我ながら最高のゲレンデを具現化できたことに、自信のような物を感じてしまう。だが、ゲレンデは見る物ではない。滑る物だ。
「どうでしょう、よければ少し滑り方教えましょうか?」
「えっ⁈いいんですか⁈是非お願いします‼︎」
ここに、臨時のプライベートレッスン開催が急遽決定した。ゲレンデのアルバイトとしては、インストラクターの仕事も経験しているし、お客さんからは定評も受けている。中には、若い女性も教えたことがあるにも関わらず、出会いに恵まれなかったことは、本当に女運に恵まれていないと、我ながら思う。
ともかくだ、サクラさんは初心者なので、道具の説明から、装備の仕方まで教えなければならない。スノーボードの道具の具現化は、もはやお手のものだ。細部まで正確に再現できる。
ウェアや小物は本人が身につけるので、そこはサクラさんに具現化を任せる。まるで、アニメキャラの変身のように、サクラさんは一瞬で装いがゲレンデの格好へと変化した。淡い桜色のウェアがよく似合っていたので褒めると、本人もまんざらではない様子だったのは、印象深く感じた。
準備が整ったところで、手取り足取り、丁寧に説明し、まずは、スノーボードを足につけて、立ち上がるところから練習を始める。
「さぁ、まずは立ち上がってみましょうか。この手を掴んで、ゆっくりと立ち上がってみましょう」
スノーボードを履き、雪の上で座っているサクラさんに手を差し出す。
おずおずと俺の手を持ち、体重を俺に預けながらサクラさんは立ち上がる。その間、板が滑って転ばないように、俺は雪と板の間にブーツのつま先を少しだけ噛ませ、補助をする。
「やった!立てましたよ!」
「完璧ですね。はい、じゃあ、次は斜面を板を横にしたままゆっくり滑る練習をしてみましょう。軽くつま先をあげながら、滑ってみますよ」
「っ、はい!」
サクラさんは、真剣に、でも素直に俺の指示を聞いて練習してくれている。とても教えやすい。
「ぇえ?!ちょっと待っ…」
そっと差し出した手を引くと、途端にバランスを崩し、サクラさんは雪に尻餅をついた。
「オーケーです。1秒くらいはそれでもバランス取れましたね。次はもう少し長くバランス取ってみましょう」
「おぉー…。スノーボードって、こんな感じなんですね」
初心者らしく、おっかなびっくりと転んだサクラさんの表情はとても晴れやかで、思わずこちらも微笑んでしまうほどに愛らしかった。
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