第17話 村での余暇の過ごし方(サクラの場合)
「あー…、はい。大丈夫です」
「すぐ行きます!そこを動かないでくださいね‼︎」
何か自分が悪いことでもしたかのような勢いの電話だった。だが、興奮の仕方から咎めたい訳ではないのは分かる口調だった。
しかしまた、突然どうしたのだろう。サクラさんの意図を思いあぐねていると、下から小舟に乗って空へと上がったくるサクラさんの姿が目に入った。相変わらず、大きくぶんぶんと手を振って、こちらに挨拶してくれている。
「すいません、お待たせしました!あの、今のがスノーボードってものですか?私、興味があったんですけど、実際に見るの初めてなんです‼︎」
興奮まじりに、サクラさんからの思いがけない一言。胸の内が暖かくなり、今にでも花が咲き乱れそうなほど、俺の心は朗らかになるのをはっきりと感じた。
「…あっ、そうなんですね」
嬉しすぎて、端的にしか言葉が出ない。
「はい!生前はそりで雪が降れば田んぼの斜面とかでよく遊んでいたんですよ。雪が好きで、滑るのが好きで」
「…はい」
俺もだ。雪が好きで、滑るのが好きで、たまらない。
「この村でお勤めしてると、たまに現世の情報が手に入るんですが、以前一度スノーボードの雑誌が手に入ることがあって、その付録についてたスノーボードのDVDを見て、それ以来ずっと憧れてたんですよ!」
分かる。超、分かる。雑誌が手に入ったりするのは気になるが、それはまた今度聞いてみよう。
「スノーボードできる人がこの村に来るのは初めてなので、嬉しいです!色々と聞いてみたいので。この村って、ずっとこんな春みたいな心地いい気候で、雪なんか降りませんから、雪が好きな私には少し寂しくて…」
「あれ?この村では、雪は降らないんですか?」
「一応、現世と連動して季節は巡りますが、現世に比べてだいぶ穏やかな気候で保たれてますから、雪は降っても積もらないことがほとんどですね」
「気候も、イメージしたら具現化できるわけじゃないってことなんですね」
「いえ、できますよ。ほら」
目の前に、チラチラと雪が舞い、瞬く間に辺りが真っ白になる。さらに、目の前には、
ドカドカと雪が降り、あっという間に雪が積もった。
新雪だ。柔らかく、水気もない。天然の雪山を滑るには完璧なパウダーだろう。だが、これでは初心者がスノーボードをするには難しい雪だ。
おそらく、生活の障害としてのイメージが強かったサクラには、滑りに適した雪という概念がなかったのだろう。
それならば、雪を降らせても、せいぜい雪そりぐらいしか滑れなかったというのは、納得ができる。
「よし、ちょっと試してみてもいいですか?この村で滑れそうな場所見つけて雪降らせてみます」
どんよりしていたサクラさんの顔が、みるみる晴れていく。まるで、ワクワクを隠す気もない目の輝きを見せているその顔は、子供のように無邪気で、とても可愛げのある表情だった。
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