第16話 ライド オン
一度、空中へと滑り出したら、不思議と体が動いてくれている。斜面を滑るのと違い、三次元の空中を滑走する感覚は未知だったが、なるほど、こんな感覚もあるんだなと、自分の知覚が広がっていく感覚を覚えた。
地上で空へと飛び上がれば、常に飛び上がり続ける力がなければ、自然と地上へと落下してしまうが、この夢幻の世界では重力は及ばない。
空を飛ぶ、というよりかは、海の中を泳いでいる感覚のイメージの方がより滑走が安定するのが分かる。自分の周りに目に見えない何かが充満している、そんな感覚。その充満している空間に対し滑走するイメージを持てば、まるで雪の上を滑っているような手応えすら体感できる。
俺は今、自分でも分かるほど顔がニヤついているのが分かる。楽しい。楽しくて仕方ない。滑るということがこんなに楽しいものかと再認識させられる。
まずは大きくターンを空に描いていく。山では斜面に対して平面的にしか描けないが、空中であれば、横だけではなく、縦にも斜めにもターンを刻める。
体が温まってきたところで、今度は技を打っていく。一回転、一回転半、2回転・・・。
生前打ち慣れた得意の技を繰り出し、成功させていく。スノーボードの場合、空中で技を決める時には、ジャンプ台をよく使うが、台が大きければ大きいほど、対空時間が伸び、スピンの回転数も上げられる。その反面、失敗して地面に叩きつけられれば命の危機もあり得るが、この世界ではそのリスクは当然無い。
恐怖と闘うこともなく、安心して積極的に難しい技に挑戦できる。俺はここ姫神村の空中で、思う様はラインを刻んでいく。この滑りこそが、俺という人間を表現し、存在を輝かせていく。
思う様、空で滑りを満喫していたところ、スマホが鳴った。
「もしもし⁈今あなた空飛んでますよね‼︎凄いじゃないですか‼︎近くで見ていいですか⁈」
ものすごい勢いで捲し立てられるようにスマホをかけてきたのは、俺の滑りを見ていたらしい、サクラさんであった。
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