第15話 お仕事初日終了につき

 この日はなんと、村を見渡すだけで十分という事で、家に帰っていいことになった。実際、見渡すのは一日に一回やればいいらしい。昼は過ぎていないはずだから、正味1時間程度しか働いていない。これが日々の仕事というのだから、なんというホワイトな環境ではないか。


 現世とはまるで違う環境の良さに舌を巻いている俺を見て、現世は今おかしなことになってますからね、みなさん働きすぎなんですよと、上役さんがボソッと言っていたくらいだし、本来の人間の生活は本来これくらいのんびりしているものなのかもしれない。


 帰り道はまたトコトコと村の景色を眺めながら帰るが、ふと思い立つ。


 上役さんはともかく、サクラさんもネコさんも、空を飛んでいた。乗り物になっていたとはいえ、ママチャリと小舟だ。空を飛べるわけがない。夢幻の世界、であるからこそ、あんな出鱈目なことができるのなら、俺にも空を飛べるんじゃないか?そんな考えが頭に湧いてきた。


 俺は、静かにイメージする。履き慣れた板を、スノーボードの板を想像する。侍の命が刀なら、スノーボーダーにとって命は板になる。細部までイメージすることは簡単だ。僅かな傷すらも思い描ける。


 すると、どうだ。目の前に、いつも使っている板が目の前に現れた。具現化成功だ。ご丁寧に、足にほスノーボードのブーツも履いていた。なるほど、無意識下の想いもこうやって具現化することもできるのか。


 俺は板を履き、バインディングのラチェットを締める。これで滑る準備はできた。思わずニヤケ顔が出てしまう。


 まさか、スノーボードで空を飛ぶ人間がこの世いるとは思うまい。死後の世界ではあるけれども。


 さぁ、この板に乗って空を駆ける!


 意気込み、滑走する姿勢を取り、いざ行かん、大空への滑走!


 風は優しく吹き、頬を撫で、俺は地上にポツンと立ったままだった。それもそうだ。空を飛んだこともなければ、雪の上以外滑ったことがない。それに、そもそもスノーボードは雪の斜面を滑るものだ。


 だが、サクラさん達は、自転車と小舟で飛んでいたわけだから、スノーボードでもできるわけだ。つまり、これはイメージの膨らませ方の問題だろう。ここは、物理法則が支配する世界ではない。夢幻の世界であることを思い出せ。


 気を取り直して、深呼吸。頭を空っぽにし、ただ空を滑ることを夢想する。そう、まるで夢を見るように。


 体は重力を感じることなく浮き上がり、板は滑らかに空を滑り出す。自分が動いているのではなく、世界が動いている感覚。気づけば、俺は地上を離れ、空へと滑り出していた。


 


 

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