第13話 村をみそなわす

 村を見下ろせるぐらい、ちょうど鳥が飛んでいるであろう高さで俺たちは村の上空を飛行し始めた。目の前をママチャリに行儀良く乗っているネコさんが先を行き、俺とサクラさんが乗っている小舟はその後をついていく。そして、上役さんも小舟に付き添うように飛んでいる。


 夢幻の世界だからだろうか、それなりの。スピードで飛んでいるはずだが、体に当たる風はとても弱く、むしろ心地よさを感じる。まるで春風のように柔らかい。


 眼科には、のどかな日本の原風景が広がっている。昔ながらの茅葺き屋根の家があり、水田が広がり、山や川がある。特に、姫神山の眺望はまさに絶景だ。ずっと眺めていたい気すらする。


「どうですか?なかなかいい景色じゃないですか?」


「ええ、最高ですね」


 眼科の田園の中に、幾人か人が見えた。姿からして、田んぼ農家の人のように見えるが、農家の人達は俺たちの姿を仰ぎ見ると大きく手を振ってくれた。


「お疲れ様です!精が出ますね!」


 サクラは手を振りかえしつつ、大きな声で挨拶をしていた。ネコさんもママチャリを漕ぎながら手を振りかえしていた。


「サクラさん、あの人たちもこの村の住人ですか?」


「ええ、そうですよ。彼の方達は生前、やりたくてもできなかった稲作を楽しみながら、自然と触れ合い、魂を癒しています。ここにくる方々は、なんらかの癒しが必要な人が来るものですから」


「なるほど、未練の解消だけではなく、癒すこともこの村の役目なんですね。稲作が癒しってのも、のどかでいいですね」


「癒しは人それぞれですから」


 慈愛に満ちたサクラの表情をこうして見るだけでも、俺も癒される心地がした。目を凝らして村を上空から眺めると、ちらほらと人の姿が目に映る。畑の面倒を見てる人、川で釣りをしてる人、のんびりと散歩している人、山で採集をしてる人、みな、思い思いに過ごしているようだった。


「さて、そろそろ村も一回りしましたし、戻りましょうか。ネコさん、上役さん、私の家の庭まで戻りましょう。あなたもお疲れ様でした。初仕事、どうでしたか?」


 「いや〜、なんだか楽しむだけで終わってしまった気がしますが、こんな感じでいいんですか?ほんとに村を眺めて終わっちゃいましたけど」


「いいんですよ、これで。でも、とても大事な仕事です」


 小舟はサクラさんの家の上空に到着し、静かに音もなく降り、庭へと着地した。


「この世界は、どうやって成り立っていると思いますか?」


 唐突な質問の上、抽象的で答えあぐねていると、サクラさんは遠くの山を指さす。


「あの山の向こうには、何があるでしょうか?」


 サクラさんの指差した山の向こうは、さっき上空で見た限りは、緑の山々が広がっているはずだったが・・・。


「えーっと、さらに山がある、はずです」


「その通りです。ですが、ここからはその山々は見えません。果たして、あの山の先には緑の山々が広がっているでしょうか?」


「随分と、哲学めいてますね。俺は頭が良くないんで、そういう話はどうも理解できなくて・・・」


「そんなに難しい話ではありませんよ。簡単にいえば、世界はどうやって形作られているか、という摂理の話です」


 これは参った。地頭の悪い人間にはちと荷が重い話になってきてしまった。

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