第9話 光の玉の上役さん
「ちょうど、コーヒー淹れるところだったんですけど・・・飲みます?というか、飲めますか?」
「ありがとうございます。コーヒーなんて飲むの久しぶりなので、嬉しいです!」
光の玉はふよふよとテーブル近くの椅子の上に漂うように移動し浮いている。
コーヒーを淹れ差し出しだすと、光の玉から細い紐のような光が伸び、取手に触れる。触れた状態なら物を持ち上げられるようで、そのままコーヒーのカップを玉のところまで持ち上げ、玉にカップを傾ける。
「いやー、久々のコーヒー、ほんと美味しいですね」
カップの中のコーヒーが少しずつ光の玉へと流れ、吸い込まれているようだ。どうやら、ちゃんと飲めているらしい。
俺も席につき、自分の分のコーヒーを口にする。我ながら、美味しく淹れられたと思う。
「コーヒーご馳走様でした。早速ですが、先ほどの話の説明をしてもいいですか?」
「かまいません、お願いします」
俺は軽く頭を下げ、説明をお願いする。サクラさん達の態度から見るに、この光の玉の上役さんはとてもフレンドリーなのは分かるが、そうはいっても目上の人であることに違いはないだろう。失礼のないようにしなくては。
「まず、結論からお伝えしますと、あなたは死に方が少し特殊でした。ご自分が死んだ理由は分かってますか?」
「はい、雪崩に巻き込まれ、窒息しました」
「その通り、あなたは大量の雪に埋もれ、窒息し、死亡しました。ですが、現代の医療は進化しましたね。雪崩の後、あなたの体は救助隊に発見され病院へと運ばれたましたが、なんと無事蘇生しました!おめでとうございます!生き返れますよっ!と、普通ならこれで話は終わるんですが・・・」
光の玉はじっとこちらを見据える。いや、目がないから見てるかなんて分からないが、なんかそんな気がする。
「あなたの魂の尾は肉体が蘇生したというのに、繋がらないんですよ。サクラさんから聞いた通り、頭からぴょこんと生えてるだけで。でも、見た感じ、魂の尾は肉体の方に伸びようとしてるみたいですが。・・・何か、生き返ることに抵抗がありますか?」
ジクジクと、胸のどす黒いものが腑に広がっていく心地がした。吐気すら感じてしまいそうなほどに。
「・・・この村に来て、死んだことを告げられて、どこかホッとしたのは、否めませんね」
光の玉は、まだ俺を見据えたままだ。沈黙が気まずいが、俺としてはそれが率直な気持ちだから、これ以外に答えようがない。
「死にたかったわけではないですよね。死のうとする人間は、この村には来れませんから」
刺されたような痛みが、胸に走る。
「色々と事情があるのもわかりました。でも、安心してください。この村は、次の世界へ行くために、準備をする場所ですから、焦らずまったりといきましょう」
光の玉は、またふよふよと浮き上がり、玄関へと流れて行くように移動する。
「コーヒー、ありがとうございました。今晩のところはこれで失礼しますが、また様子見にお邪魔しますね。それではおやすみなさい」
そう言うと、光の玉は玄関をすぅっと通り抜け、いなくなってしまった。本当に、不思議なことばかり遭遇している一日だ。カップを片付け、ベッドに倒れ込む。
死んでいるので、体の疲労は感じない。ありがたいが、なかなかすぐには慣れない感覚だ。しかし、気疲れはしっかりとするらしい。美しい木目の天井を見上げていると、まどろみ、睡魔に襲われた。それはとても心地よく、こんなに気持ちよくなれるのはいつ以来かと思うほどだった。
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