第7話 新しい住処
ネコさんに連れてこられたのは、村はずれの原っぱだった。
「さて、この辺りでいいかな?」
ネコさんは、原っぱを指差し、にこやかに言う。
「君には、今日からここで過ごしてもらいます」
えっ?なんですと?この原っぱで?
「・・・つまり、野営しろと?」
ネコさんは、なるほど、その手がありましたか、と感心したように笑った。この人も、こんな風に声を上げて笑うんだぁと思いながら、本当にここでキャンプ生活が始まるのかと、こちらは不安でだらないわけだが。
「いやいや、失敬。こちらの世界に長くいると現世の常識が抜けていってしまうものでして。改めて説明しましょう。この生と死の狭間の世界の暮らしを。まずは、住居からですね」
ネコさんは軽く咳払いし、俺に向き直る。
あたりはすっかり夜だが、月明かりに照らされた原っぱに立つネコさんの坊主頭を、きららと照らしている。
「この世界は、今まで君が生きてきた物理の世界ではなく、精神が基盤となる霊的な世界になります。したがって、今見ている景色や自身の姿、こうして地面に足をつけ立っている行為も、これらは全て、我々が皆等しくな肉体に宿っていた魂の業によって感じているだけで、全ては
「待ってください、いきなり難しいです」
「では、簡単にいいましょう。この世界では、イメージすることができれば、なんでも現実化します」
「あぁ、それならわかりやすいです。・・・待ってください、なんでもイメージすれば現実化するって、まるで夢みたいな世界じゃないですか」
「はぃ、だから言ってるじゃありませんか。ここは夢幻の世界だと」
突拍子もない世界観の説明に言葉を失い、呆然としている俺をよそ目に、足元を指差す。
「まずは、お手本といきますか。指先をしっかりと見てください。ここに、テーブルを用意します」
そう言うと、ネコさんの指が差し示した先に、煙のようなものが突然湧いて出てかと思えば、一瞬でちゃぶ台が現れた。
「〝テーブル〟をイメージした時に、私はどうしてもちゃぶ台を想像してしまいます。長年慣れ親しみ、使っていた家具でしたからね。もちろん、意識的にイメージすれば、いわゆるダイニングテーブルであったり、細かなディテールも表現はできます。しかし、どうやら魂はより慣れ親しんだもの、あるいは深層心理に潜んでいる物を現実化させる傾向があるようです」
「なるほど、なんとなくは分かりました。欲しいものを念じればいいんですね?」
「簡単に言うと、そういうことです。ですので、この原っぱに、あなたが住みたいと思う家を想像してみてください」
「・・・やってみます」
住みたい家か。大学生活はボロく薄汚い安アパートで倹約に倹約を重ね暮らしていた。全ては、スノーボードに金を注ぎ込むためにだ。
倹約のために俺は欲しいものも買わず、必要なものだけを買うよう心がけていた。結果、俺の部屋には最低限の家具しかないし、多くは譲ってもらったものや、値段だけをみて買った欲しくもない安物だらけの部屋だ。
正直言って、俺はあんな生活はしたくはなかった。ほんとなら、もっとオシャレに部屋を飾りつけたり、自分が欲しいと思った物で部屋を満たしたかった。が、スノーボードなんて金のかかることまでしていたら、金がいくらあっても足りない。
思えば、生前はよくもまぁあれだけ我慢に我慢を重ねた生活をしていたもんだ。だが、こうして死んだ以上、煩わしい現世での制約はもう無い。ならば、理想の家をここに現実化してやろう。理想の生活をしてやろう。もう死んでしまった後だけど。
理想の家を念じるため、ぐっと目を閉じ、イメージする。
理想の家、理想の家、理想の家・・・。
パッと目を開き、見上げれば、そこにはオシャレなログハウスがあり、家の中からは暖かな光が漏れて来ていた。
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