第5話 異例の事態

「あっ、ちょっと待ってください」


 席を立とうとしたところ、急にサクラさんから呼び止められた。

 サクラさんはずっと俺の頭の上の宙を見つめている。見つめ続けているうちに、次第に眉間に皺が寄り、ネコさんの元へ駆け寄るとバンバンとネコさんの背を叩きながら、これ見てくださいと、少し焦りながらヒソヒソ話を始めた。


 ネコさんも俺の頭の上を見るなり、おぉ、これは珍しい、と呟き腕を組んだままじっと凝視してる。


「いや、そんな反応されると普通に怖いんですが。俺の頭がどうかなってるんですか?」


「いや、特に危険というわけではないから安心してください。サクラちゃん、一応上役に確認しとこうか」


「はい、電話してみます!」


 サクラは家屋の片隅に台に置かれた黒電話へと駆け寄り、受話器をあげる。

 番号をいちいち指でダイヤルを回すたびガチャコンと音を立てている。まるで歴史ドラマを切り取ったような光景に、昭和レトロの趣を感じないわけにはいかない。


 「あっ、お疲れ様です、姫神村のサクラです。上役さんですか?すいません、お尋ねしたいことがありまして、新しく村に来られた方で、頭から銀色に光る紐みたいなものを伸ばしてる方がいまして・・・」


 頭から、紐を伸ばしている。なんとも馬鹿みたいな姿だ。どうやら頭のてっぺんから伸びてるようだが、自分でも見れるのだろうか。顔を上げてみるが、どうも自分からは見えない。


 ネコさんに、どんな感じか聞いてみると、頭頂部から伸びていることを教えてくれた。しかし、紐の長さはせいぜい30cmくらいらしく、色もだいぶ薄いとのことだった。


 触ってみようと手を伸ばそうとするが、スッとネコさんに伸ばした手を制止され、多分触らない方がいいですよと、言われる。


 確かに、正体がわからない以上、下手に触らない方がいいか。


「えー!そんなことあるんですか?でも、そしたら、普通に村人としてお迎えしていいんでしょうか?」


 何やら、会話の雲行きが怪しいぞ。


「・・・はい、・・・はい。分かりました、ではそのように。・・・あっ、私たちですか?元気にやってますよ。いつもかにかけていただいて、ありがとうございます!」


 要件が片付いて、今度は世間話が始まった。その会話の様子から、どうも上役さんと仲が良さそうなのは分かった。ここで働いているって話だったが、労働環境は良さそうで、なんだかほっこりしてしまう。


「お待たせしました。頭から生えてる銀の紐について分かりましたので、ご説明しますね」


 受話器を置いたサクラはこちらに向き直り、ハキハキと話を進める。


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