筑前国 博多 天正八年(1580年)
復唱の章 第1話 鑑連
天正八年(1580年)夏、筑前国博多櫛田宮付近(現福岡市博多区)にて。
秋月種実 古処山城城主 秋月家当主 反大友勢の旗手の一人
戸次鑑連 立花山城城主 大友家の重臣
鑑連
「ワシの名前を言ってみろ」
種実
「立花山城の戸次伯耆守鑑連だ」
鑑連
「そうだ。良く知っているな。戸を閉めろ」
種実
「……」
鑑連
「なるほど。よく似ている。ワシが、総大将としてその首を打ってやった秋月親子にな」
種実
「……」
鑑連
「あれは弘治年間のことだったな、種実」
戸次武士
「あ」
秋月武士
「ひっ」
鑑連
「この死に損ないめが!ワシが聞いているのだ。答えろ」
種実
「そうだ。弘治三年のことだ。だが、その仇は永禄十年にとった」
鑑連
「ほう」
種実
「私を斬れるか?私を殺せば、安芸の毛利家が動くぞ」
鑑連
「もう動いているだろうが」
種実
「裏でだ。表立ってはいない。そして未だ国埼の内乱は収束していない。安芸勢が表立って田原勢を支援すれば、面白いことになるだろう」
鑑連
「では、ここでワシを斬るかね」
種実
「なに」
鑑連
「ワシとこの下郎二人、貴様らは四人。千載一遇の好機だぞ。ワシが消えれば、筑前を切り取り次第できるかもしれん」
種実
「いいや、斬らない」
鑑連
「ほう、理由を言ってみろ」
種実
「ここは戦場ではない」
鑑連
「クックックッ!戦場では無い?」
種実
「……」
鑑連
「クックックッ、クックックッ」
種実
「……」
鑑連
「ワシを低くみおって、許さん」
秋月武士
「うわっ!」
鑑連
「殺してやる」
種実
「痛っ……えっ……!」
戸次武士
「うわっ!」
秋月武士
「あーっ!と、殿!」
鑑連
「クックックッ!これが秋月次男坊の首か!クックックッ!」
秋月武士
「おのれ、よくも殿を!」
鑑連
「死ね、反乱軍ども!ワシに逆らう者は、死あるのみだ!」
秋月武士
「ぎゃあ!」
種実
「はっ!」
秋月武士
「殿?」
種実
「……あ、あれ?ここは……」
秋月武士
「はい。櫛田神社はもうすぐです」
種実
「う、嘘」
秋月武士
「間違いありません。この町の事は、殿が熟知されている通りと思いますが……」
種実
「……」
秋月武士
「……」
種実
「そ、そうだな。うん。で、島井は来てるかな」
秋月武士
「いえ、聞いている話では、そろそろ戸次鑑連との会談が終わるはず。しばらくお待ち頂くことになるかと」
種実
「……」
秋月武士
「殿?」
種実
「戸次鑑連は来てないよな?」
秋月武士
「はっ?」
種実
「いや、だから戸次鑑連……」
秋月武士
「ヤツの会談の場は博多の反対側ですから……」
種実
「……」
秋月武士
「殿。何かご懸念が」
種実
「いや、なんでもない。大丈夫だ。今日、危険を冒してこの町に来たのだ。価値ある情報を得て帰ろう」
秋月武士
「島井がグズるようなら、我らが必ず吐かせてみせます」
種実
「ん」
秋月武士
「殿、落ち合う場所は、あのあばら家です」
種実
「女郎屋にしか見えんが」
秋月武士
「島井指定の場所です」
種実
「良い趣味してるな」
鑑連
「ワシの名前を言ってみろ」
種実
「立花山城の戸次伯耆守鑑連だ」
鑑連
「そうだ。良く知っているな。戸を閉めろ」
種実
「……あれ?」
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