第7話「試練」
円盤は内部と外部に分かれており、内部は磁力で浮かんでいて、外部を光の速度まで高速回転させ移動させる。
犬「リニアモーターカーを円に走らせてると考えれば解り易いやろ?」
広志「へ? 回ってんのが速いだけで、速く移動できんの?」
犬「移動するんじゃなくて、空間を見つけるんや。つまり……」
犬はヒモを持ち、
犬「例えばヒモの端から端まで移動するとして、ヒモの距離を進むんやのうて」
次に、ヒモの端と端を結び円を作った。
犬「端と端を繋いでる空間に入るねん」
広志「???」
犬「解り易く言えば、円盤は『どこにでも……行ける玄関』みたいなもんやな」
広志「へぇ~、行きたい場所を念じて扉を開けるだけやから『どこでもド……どこにでも行ける玄関』の方が進んでんなぁ」
犬は、大きく溜め息をつくと、
犬「あれは、漫画じゃぁぁぁぁぁ~」
あれは、漫画じゃぁぁぁぁぁ~
あれは、漫画じゃぁぁぁぁぁ~
あれは、漫画じゃぁぁぁぁぁ~
山に大きく
やっぱ僕以外には、犬の鳴き声なんだろうなぁ。
広志「あれ? でもさぁ、自分の円盤ちゃうやん」
犬の宇宙船は円形ではなく、スポーツカーのような形をしていた。
犬「かっこええやろ? この流線型たまらんね」
僕には、5才児以下のキコキコ漕ぐ乗り物にしか見えなかった。
広志「で? これクルクル回るの?」
犬は手のひらを上にし、肩を少し上げ、ゆっくり首を振った。呆れた時に外国人がやるようなポーズだ。そして、今の時代、円盤に乗る奴は居ないと断言した。
二十年ほど前に、光の速度で電子をコマのように回転させる事に成功したらしく、それが宇宙船に実用化され、色々な形で作られたり、小さくする事が出来たんだそうだ。
犬「実はな、地球人が考えた電子レンジからヒントをもろうたんやけどな」
広志「へぇ~、んじゃさぁ~、地球人も火星人並の宇宙船作れんの?」
犬「あぁそれは無理やな。反重力システムを地球の技術では、まだ作れんやろうからな」
神主「か、火星人じゃとぉ!」
あまりにも大きな犬の鳴き声を聞いたので、何事か?と思った神主が広志たちに気づかれないように、そっと様子を伺っていたのである。
神主「あの子……友達がおらんのじゃな。かわいそうに、一人であんな物まで作って」
神主は、犬との空想的な会話を楽しんでいる『かわいそうな少年』をじっと見守っていた。そっとしておこうかとも思ったが、もっと良い考えが浮かんだ。
神主「そうじゃ、ワシがあの子の最初の友達になってやろう」
神主は、自分と触れ合うことによって人に慣れ、学校の友達とも打ち解け易くなるであろうと考えた。
神主「ふぉふぉふぉ、その犬、火星人とな?」
広志「!?」
僕の心臓は激しく打ち、どう対応するべきなのか解らなく、ただただ動揺するだけだった。
どうしよう? バレた! しかも大人に!
犬「消すか?」
広志「ダメだよ! 殺しちゃ!」
な! なんじゃとぉ~!
ま、まさか、そ、それほどまでに、この子の心が病んでいようとは!
空想が作り出した犬の言葉……バレたからヤルか?
などと言った言葉に対して、
この子は、この子は、必死でワシを守ろうとしている!
そうか! そうじゃたのか!
神よ! この子はワシに与えた試練なんじゃなぁ!
少年中にある善意(少年)と悪意(犬)が激しく争っているのを感じとった神主は、その大きな愛で少年を救おうと決意した。
犬「アホか? お前、記憶を消すってことや」
広志「なぁ~んだ」
イカン! 少年よ! 悪意に負けてはならぬぅ!
犬は、眩しい光を神主に当て催眠をかけた。
犬「ん? どう言うことや?」
神主の心は鋼のように強く、催眠状態に入ってからも、少年を助けるために必死に戦っていた。
神主「ワシが……ワシが……救わねば……ムニャムニャ」
広志「このお爺ちゃん、地球を救うつもりでいるみたいだね」
神主「ムニャムニャ……ふぉふぉふぉ、ムニャムニャ……実は……ムニャムニャ……ワシは何を隠そう金星人なのじゃ!」
広志・犬「はぁ?」
犬「そうか! 解った! この爺さん。ワシらと遊びたかったんや」
広志「こんな山で一人で住んでるんやもんなぁ。寂しかったんやね、お爺ちゃん」
犬「かわいそうな爺さんや、いっそ始末してヤった方が、この爺さんの為やったかもしれんなぁ」
犬は、神主の願うままに催眠を導いて「宇宙海賊ゴッコ」を堪能させた。
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