2-8 決戦

 それから、俺と2610ニムトは隣国中を旅した。

 エリスの手掛かりを見つけるために。


 しかし、音沙汰無かった。


 ようやく手掛かりが見つかったのは帝国に戻ってからのことだった。


 帝国のある村に寄るとこんな噂を聞いた。帝国と隣国の国境沿いの村が一夜にして村人が全員死んだらしい。


 帝国は敗戦した。今や帝国の村を襲うのは暴徒の類だろう。

 

 しかし、噂に寄ると死んだ村人は外傷が無かったらしい。


 ということは魔眼を見て死んだ……?


 やったのはエリス?


 それから俺と2610ニムトはその村に向かった。


 しかし、今度は別の村で同様の事件が起こった。外傷のないまま村人が全員死亡。

 

 エリスは帝国民を全員殺すことに決めたらしい。


 今度はこんな噂を聞いた。


「今帝国には兵士がほとんど残っていない。王は市民を無理矢理徴兵して、エリスって奴に特攻させるらしい」


 その夜、また別の村が襲われた。しかし、俺たちはその村には居なかった。居たのは帝国首都、王の居城。


 俺は王に謁見していた。


「その面もう見せるなといったはずだが。」


 王はやつれていた。


「俺はエリスを止められる。無駄に人の命を費やさずに俺に任せてくれ!」


「ほぅ。化け物には化け物ということか」 


「なぜ、わしに会いに来た。エリスに用があるなら直接会えば良かろう」


「あいにく、エリスの場所が分からない。王様にならなんか声明文とか出てるんじゃないかと思って」


 俺は言った。


「ふん。勘のいい奴だ。ホレ。これを持ってとっとと失せろ」


 王は紙切れを俺に投げてよこした。それは地図だった。帝国領内の全ての村、町を赤い線が一筆書きで通過している。この順番で町を襲うということか。


「ありがとう。必ずやエリスを討ってみせる」


 俺は王の謁見部屋から去ろうとした。


「待てぃ。貴様はワシに会いにきた。それがどういう意味か分かるか?」


「?」


「貴様は帝国の兵士として、隣国の兵士エリスと戦うということじゃ。つまり、これは王が認めた、一対一の戦争ということじゃ」


「貴様が勝った暁には我が国の兵士として、再び働いてもらう。隣国を打ち破るためにな」


「エリスを破るほどの力があるなら使えるということ」


「よいか?」


 王はそう言った。


 俺はこう言った。


「エリスさえ殺せれば、その後ことは知ったこっちゃない。俺を好きに使うがいいさ」


 俺は城を後にした。


 2610ニムトは神妙な顔持ちでついてくる。


 目指すは地図で昨晩、襲撃された村の次に、赤い線が通過する町。そこにエリスが来る。


◆◇◆◇


 王がエリスと俺の戦いを認めてから、その襲撃予定の町は住人の避難が完了していた。


 町の広間に 2610ニムトと二人で佇む。


 そして、月が真上に昇る頃。


 ……来る。


 俺は直感で感じた。


 急に視界に人影が現れた。


 スーツに身を包んだ長い青髪の少女が目の前に立っていた。


 エリスである。


 「2610の命が惜しくば、俺と決闘をしろ、エリス!!」


 俺は叫んだ。


「……分かった」


 エリスはそう言った。


「だから、その子には手を出さないで」


 やはり、2610この子が大事か。


「アリスが居なければ、あなた達を殺す意味はない」


 エリスはそう言った。その顔は明らかに


 こいつは悪夢に囚われている。帝国民が2610アリスに危害を加える存在だと妄信している。


 だから、エリスは、帝国民を殺す。それが、全て2610アリスの為になると信じて。


「俺と決着をつけるなら2610この子には手を出さないでおいてやる」


「だから……俺と戦え」


「いいわ」


 俺は剣を構えた。エリスも剣を構える。4本の剣が彼女の周りに浮いていた。


「一つ教えておいてあげる。あなたの不死破りの毒。完成したわ。これでアリスに危害を加えるものをこの世から完全に消す」


 彼女の持つ剣と、周囲に浮かぶ4本の剣は黒紫色だった。

 

 そうか。これが不死破りの剣。これらのうち一本にでも斬られたら俺は死ぬ。


 だが斬られれば死ぬのはエリスも同じ。

 条件は同じだ。


2610ニムト。勝負が終わるまで遠くへ行って隠れてろ」


「うん……」


 彼女は遠くに行って身を潜めた。


 そして……、


 勝負……!!


 戦いの火蓋が切って落とされた。


 すると彼女の周囲に剣や盾が現れはじめた。その数はどんどん増えていき、100に登ろうとしていた。

 

 幻影人形だ。


 俺は剣で自分の喉元を掻っ切り、霊体化する。


 すると、幻影人形の正体が見えた。


 男や、女、子供も居る。エリスに殺され、囚われの操り人形と化した人々。

 

 今、解放してやる。


 俺は右手に持った霊剣で、次々と幻影人形達を瞬殺していく。


 あっと言う間に幻影人形は全滅した。


 俺は不死の能力により俺の肉体が再生する。


 視界が元に戻った。エリスは動揺していた。


「そんな……私の人形たちが……!!」


「ここからは純粋に剣の勝負といこうぜ」


 俺はエリスにそう言った。


「言われなくても!」


 エリスとの剣戟が始まった。彼女の操る5本の剣を捌いていく。


 しかし、俺は直感で感じた。


 エリスは今の俺より弱い。


 エリスの強さはベオ師匠と同じくらいだった。ならばその強さはもう超えている。


 俺は一本ずつ彼女の剣を弾き飛ばしていった。


 そして彼女の手に残る剣一本となった。


 エリスは肩で息をしている。


 俺には、まだ余裕があった。


 エリスと最後の剣で一騎打ちをしている。彼女は防戦だった。


 俺は最後の剣を弾き飛ばした。


 エリスは観念したように心臓(胸)を差し出した。


 俺は躊躇なく彼女の心臓を串刺しにした。


 彼女の口から血が溢れる。


 彼女の口から言葉が紡がれる。


「お願い……アリスだけは殺さないで。それと……ごめんなさい。あなたの友達の大切な命を奪ってしまった……でも許してもらうつもりはないわ……これで私も……ようやく死ねる」


 そう言って彼女は事切れた。


 終わった。ニムト。シャーロ。ハービヒト。騎士の皆。


 ありがとう。ベオ。イヴ。2610ニムト


 すると俺の天井から光が差し込んだ。

 白い光に視界を奪われた。


 どこからか声がする。それは以前聞いた、半天使の声。

 


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