第10話コイさんと大食らい猫

「おいしそうな卵ですなぁ〜」と聞いたことのある声です。見ると大食らい猫がイスに前足をかけテーブルにポツリと残された卵をじーっと見ていました。なるほど鳥さんたちが逃げるはずです。

「ゆで卵〜に、目玉焼き〜、それとも生で〜卵かけご飯」

大食らい猫は歌うように言いました。アリスはできるだけ冷静に、さも当たり前、という風にこう言いました。

「あら残念ね。これは私が温めてふ化させることになったの」そう言うとできるだけゆっくり、そしておごそかにその卵を手に取るとポケットにしまいました。その様子を大食らい猫は残念そうに見ていました。アリスは決してすきをみせないようにして、

「それじゃあ猫さんさようなら」と言ってその場をゆっくり立ち去ります。


「アリスさん、せっかくまた会えたのに〜、もうさよならですか〜?」

アリスはもうかかわりたくなかったので、答えませんでした。

「神社ではいいことがありましたか〜?」大食らい猫は大きな声で後ろから話しかけます。

「……」

猫の口がまた大きくなっているような気がします。走ってその場から逃げたい、と思いました。すると下の川の方から、

「猫さんこんにちは。今日はいいお天気ですね」と声がしました。見るとどうやらさっき会ったコイさんのようです。「私たちの間であなたはとても有名ですよ」

すると猫はにんまり笑って、

「そう〜でしょうとも。あなたたちのお仲間さんをと〜ても美味しくいただかせていただいてますよ〜」大食らい猫の興味はすでにアリスではなくコイさんの方に向いてました。

アリスは助かったと喜んでいいやら、コイさんを助けてあげたいやら、気持ちがちょっとごちゃごちゃになってしまいました。

「でもあなたはケガして傷んでいるコイや年老いたコイしか食べてないのに、それでも美味しいって思ってるんですね。だから私たちの間ではハイエナ猫だって有名なんですよね。ははは」コイさんはなんてことをしゃべってるんでしょう。

「そこまで言うなら、一度あなたみたいにピチピチのコイをボクに食べさせてくださいよ〜」大食らい猫はカチンときて言いました。大きな口は笑ってますが、その目は笑ってません。

「食べ過ぎてノロマなあなたには無理でしょうね」

「そうでしょ〜か〜!!!!」と言うなりその大きな口を虫取りアミのように大きく大きく広げて、コイさんめがけて猫は大ジャンプしました。

「あぶない! コイさん!」アリスは思わず大声で叫びました。

ばしゃ〜〜〜〜〜〜ん〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!

猫が川面から立ち上がるとその大きな口からぶしゅ〜〜〜〜っと水が勢いよく吹き出ます。その口の中にはコイさんがいるのでしょうか、猫の口は笑ってるように見えます。

すると、突然水面のここかしこから水しぶきが上がり、猫めがけて襲いかかってきました。

なんと何十匹ものコイがいっせいに猫めがけて食らいついてきたのです。

さすがの猫もたまったものではありません。あわてて岸に上がろうと必死にジタバタ動きますがすでに何匹ものコイが体に吸い付いて、その重い体ではその場から動けませんでした。

その光景はテレビで見たピラニアが動物を襲っているシーンを思い出させて、アリスはギョッとしました。

バシャバシャという激しい水しぶきがおさまると、全身の毛をむしり取られた猫がボーゼンと立っていました。そしてハッと我にかえると一目散に逃げていったのでした。

「やったな」「やったな」川面からいっせいに声がわき上がりました。

その中心には、食べられたと思ったコイさんもいました。

思わずアリスも拍手をしました。

「アリスさん、ありがとう」それを聞くとアリスは涙が出てきました。

「よかったら、私たちが川下まで運んであげますよ」


コイさんたちの好意に甘えてアリスは川を下りました。

お世辞にもコイ達の上に乗って川を下るのは心地いいものではありませんでしたが、でもとても気持ちよく川を下ることができました。


そうしてアリスは中央小学校になんとかたどり着いたのでした。

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