第93話 イネちゃんと略取
「えっと、ここはどういう場所なんだ。なんとなく市場のような場所だというのはわかるんだが……」
翌日、イネちゃんたちは家の近くにあるゲートとの交易品も取り扱う商店街に足を踏み入れていた。
とりあえずティラーさんが場所についての説明を求めてきているので、説明できそうなイネちゃんがひとまず対応する。田中さんもいるんだから説明してくれればいいのに。
「商店街だよ、ここはあっちとこっち、両方の世界の品物を取り扱ってるからそこそこ活気がある感じ」
「商店街は活気があるものなんじゃないのか、人が集まる場所だろう」
あーそれはそうだよね、あっちの世界だと市場とかが中心だし、なにより通販どころか総合商店みたいなのもないからね、そう思うのも仕方ないか。
「こちらの世界では多くの商品は通信販売という形で購入できますので……それとここのような専門店ではない総合商店が重用されるために、個人商店が集まる商店街は活気を失っていっているのです」
田中さんぐっじょぶ。
イネちゃんだとちょっと変な説明になる気しかしなかったから本当にありがたい。
「ま、便利は何でもかんでも万人を助けないってことやね、何かしら代替するならいざ知らず仕事が減ったり消滅した場合、貨幣制度で社会を回すのなら新しく生み出さないとただの口減らしになりかねないかんな」
んーなんだかムーンラビットさんが何か言い始めた。
「ともあれ今は楽しませてもらうんよ、こっちの世界の便利はどんなことを生み出しているのかーとかの視察って教会の書類には書いてきたから、形だけでもやっておかないとねぇ」
「ムーンラビット様、それは初耳なのですが……」
「だって言っておいたら工場とか情報の管理する場所に連れて行かれるじゃん、私が見たいのはその便利が実際に使われているところだからねー」
あーそれはわかる気がする。
政治家の人とかが他の国の偉い人を案内するのって普通は立ち入れない区域に限定されてるような感じだもんね、技術の運用って面ではそっちのほうが確かにいいんだけれど、どういう効果や弊害があるのかって実際使う人の意見を聞いたほうが確実だもんね。
実際イネちゃんの持ってるP90とかその好例だもんなぁ、設計段階だとかなり評価高かったのに、実際作って使うとジャム率が高かったっていう。
でもまぁ、それを実際に運用管理している会社ならそういう情報も集まるんだろうし、二度手間なくすためだったりするのかな、それでもムーンラビットさんはこっちって言いたいんだろうけれど。
「実際にそれの中身まで知り尽くしている人と、知らないで使っている一般人じゃ抱く感想も違うだろうからねぇ、構造とか理屈抜きでしっかり運用できるのかって点が一番重要なんよ」
「確かに、その面だけを言えば現場を見たほうがいいですが……」
「何でもかんでも固くならんでええんよ、きっちりするところとしないところはメリハリつけないとねぇ、私の対応ならゆるゆるでええんよ、ゆるゆるで」
いやぁ流石に外交相手の重要人物相手だとそれは難しいとイネちゃんは思うな、ムーンラビットさんってヌーリエ教会の一幹部とかのレベルじゃなく、実務トップってところだし、司祭長にも意見できちゃうらしいからなぁ。
交渉する上ではムーンラビットさんとだけしておけば確実ってレベルなのは本来危険だとイネちゃんは思うんだけれど、ちゃんと後継育成してるんだろうか。
実質不死だからそのへんが抜けてそうだよね、基本必要がないから。
「流石にその要望は私が上司に怒られるどころではないので聞けません。それでは今回の視察は何を確認するためなのかをそろそろ……」
「あぁ商店で運用されてるシステムとかよ、会計や仕入れ搬入とかの部分。私らの世界じゃ複合商店って時点で大型だからねぇ、あるにはあるけど中々できないから参考にできそうな部分はしようかと思ってな」
「今まではインフラ周りが中心でしたが、今回は物流ですか」
「ヌーリエ教会はこっちには無い転送魔法陣でなんとでもできるんだが、流石に大規模過ぎて教会とギルド以外には防衛面でも普及できなくてなぁ、参考にできる部分は多いと思うかんな、誰にでもできるニコニコ物流システムって」
あぁそうか、イネちゃんは毎回教会かギルド通していたからわからなかったけれど、確かにあっちの世界では物流って基本は荷馬車とか商隊だもんね。
「商人の護衛は傭兵、冒険者共に最も多くて一番重要な仕事だからな、ぬらぬらひょんでも結構な頻度で請け負っていたんだが……」
ティラーさんが街道でのあの動物さんの襲撃を思い出しちゃったか……そういえばあの時ってどういう編成だったとか聞いたことないや、聞けるほどイネちゃんが図々しくないっていうのもあるのだけれど……もしかしたらキュミラさんが聴いてるかもしれないけれど、ティラーさんと出会ってから色々忙しかったからあまり雑談とかしてなかったんだよねぇ。
というかイネちゃんがあまり会話に混じっていない気がする、ここ最近本当イネちゃんの思惑とは別にどんどん事件とかが起きて流されてるんだよなぁ、むしろイネちゃんがしっかり自分の意思で動いたのって村で防衛柵作ってた辺りが最後じゃないかな……。
「イネ嬢ちゃん、どうでもいいけどちょっとネガティブ漏れてんよー」
「え、嘘!?イネちゃん今何か喋ってた!?」
そうだとしたら凄く恥ずかしいんですけどー!
「あぁいや、どうにも上の空で反応が鈍いなーと思ったもんでね、すこーしだけ除いて見ただけだから言葉には出てないんよ。ただ言葉を媒介しなくても今のイネちゃんは心配される程度にはネガティブオーラだしてたねぇ」
「うっ、申し訳無い……こう最近、イネちゃんが自発的に何かしたとか無いなぁって思ってちょっとね」
「そういう。いやまぁここ最近って基本政治的な事件ばかりだったかんな、リリアの護衛とか村の防衛ならまだしも、ヴェルニアの街での攻防だって本来なら紛争介入だから個人意思は別になっちゃうもんな、流石に私みたいな立場とか力持ちじゃなきゃ個人でどうこうっていうのは無理なんよー」
「うーん、そのレベルならイネちゃんだって無理だっていうのは理解するし納得できるんだけれど……他に何かできることとかあったんじゃないかなーって」
特に村の防衛に関してはもっと上手いやり方とかがあった気がするんだよね。
「私から言えることはアレだね、過ぎたことを言って自分を慰めるのはええけど、あまりすぎると傲慢とか欺瞞に繋がるんでやめたほうがええんよ、卑屈も行き過ぎれば傲慢に切り替わっていくかんな」
「それってどういう……」
こと。とつなげようとした瞬間、猛烈な勢いで黒塗りのワゴン車がイネちゃんたちの真横に急停止して扉を開き、ムーンラビットさんを車内へと連れ込んでしまった。
そしてここでもっと周囲に気を回していればよかったと思うのだけれど、ティラーさんが支給してもらった消火斧で車体を切ったけれど甲高い金属同士がぶつかる音がして弾かれたのを見て、イネちゃんもP90を抜こうと脇が少し空いたところで後ろから抱き抱えられて車内に放り込まれた。
「――――」
明らかに日本語でもあっちの世界の言葉でもない言語でイネちゃんを放り込んだ男の人が叫びながらドアを閉めると、車はタイヤが軽く空転する勢いで急発進した。
『あーイネ嬢ちゃんちょっといいかね、これ完全にイネ嬢ちゃんを巻き込んじゃったわ』
とその直後にイネちゃんの頭の中に直接ムーンラビットさんの声が響いて少し驚くも、そのまま会話が続いた。
『その前に刺激せんよう実際に喋るのはNGな、頭の中に直接思い浮かべてくれればそれで意思疎通になるんでそっちで。とりあえずはこいつらは……いやまぁ何人かぐへへとか考えてるっぽいがリーダーっぽいのは任務を遂行と考えている辺り、とりあえずの身の安全は保証されるっぽいんで……武器を隠すような感じにマントを羽織って備えてもらってええかね』
ぐへへが何か少し気にはなったけれど、ともかくムーンラビットさんの指示通りにマントで体を包むように動くと、ひとりの男の人が。
「――――」
何を言っているのかわからないまま男の人がイネちゃんのマントを剥ごうと掴みかかってくるけど。
「Stop」
状況にはあまりそぐわない、かなり落ち着いている英語が聞こえてきた。
「―――――――――」
その短い制止の言葉に、イネちゃんに掴みかかってきた男の人が……多分この人の母国語で喚き散らし始めると、制止をかけていた男の人が振り向きざまに。
パァン!
と銃声がなると、イネちゃんを掴んでいた男の人の動き……というか生命活動を停止させた。
この時ムーンラビットさんは短くヒッって口から漏れたけれど、絶対演技だよね、撃たれても大丈夫だもん。
仲間のはずなのに命令に従わなかったら即処分ってかなりぶっ飛んでいると思うんだけど……仲間が処分されたのに対して他の人たちは特に何も思っていないように動かない。
『えー解説いるかいイネ嬢ちゃん』
(あ、お願いしまーす。)
『なんでもこっちの世界で言語の違う連中が集まって、主に私を略取する前提で動いているみたいでな、イネ嬢ちゃんは出自の関係で第2目標だったんやと。こいつらはゲートの関係で利益の享受が全くないか薄い国の連中で、正攻法の手段だといつまで経っても不可能だろうと強攻策に出たわけだ、国にご案内っていうとこやな』
(でもそれでイネちゃんを剥ごうとした男の人がなんで即射殺されたの?)
『平和的な手段で無いにしてもこのあと交渉することになるわけでな、ただでさえ乱暴にお連れしたのに交渉前に暴行までされたとかなったら、失敗確定なわけでな。まぁ手段の1つとしてはあるだろうが、今切るカードではないわな、お偉いさんが交渉して私が首を縦に振らなかった場合に切るカードやし』
(あ、結局そうなるんだ)
『でも命は保証されるわけでな、まぁ私は別に問題無いどころかウェルカムなんだが、イネ嬢ちゃんは流石に守らないとあかんしなぁ。ただ武器を取り上げる気がない辺り、あちらさんとしても連れ去り以上の乱暴はできれば避けたいんじゃないかね』
(憶測が多分に含まれてるようにイネちゃんは感じるんですけどー!)
『そのへんは流石にな。ともあれこの乗り物の動きとか元の位置からの動きは私が把握できてるんで、これを計画した連中の顔を拝むくらいはするんよ。そういうわけだからイネ嬢ちゃん、ちょい我慢してなー』
(でも会ってどうするの?)
『まぁ逃げるのはいつでもできるし、もしかしたら反乱軍に協力しているかもしれん奴がいるかもやから……いなかったらまぁ、ちょい暴れてバイバイするだけやね』
なんとも行き当たりばったりな気もするけれど、ムーンラビットさんに従って流れを見守ることにした。身の危険が無いのならって前提だけどね。
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