第83話 イネちゃんと爆発音

「で、この盛り付けだけれど……」

「ふむふむ、お味噌汁じゃなくてお吸い物で、焼きおにぎりを……」

 お椀に焼きおにぎりをいれて、そこに急須でお吸い物を流すやり方をリリアに教わりつつ、野菜を素揚げしてチップスにしたものの油を落としてお皿に盛り付けていく。

「お吸い物は執務室で入れるんだよね?」

「んー確かにそうだけれど、別々に食べてもいいんだよ。ただどっちでも美味しくいただけるから、個人の好みで変えられるようにした感じだね」

「へぇ~」

 なんだかお高い感じの料亭みたいな感じ。

 とりあえずキャリーさんとシードさん、それにムーンラビットさんにヨシュアさん……いちおうイネちゃんとリリアの分と余分に2・3人分くらいを配膳台に乗せていくとリリアのほうもいくつかの小瓶を自身のポーチから取り出して配膳台に乗せた。

「これは?」

「山椒、片方は私手作りの山椒のレモン漬け」

 山椒とレモンは合うのだろうか、という疑問はあるもののとりあえず準備ができたから執務室まで運ぼう。

「じゃあリリア、行こうか」

 イネちゃんがそう言って配膳台の持ち手を握ったところで……。

 ドンッ!!

 とお屋敷全体が揺れる感じの衝撃で、お吸い物の入った急須から少しこぼれるくらいの揺れでリリアなんて驚くような速さでテーブルの足を持って下にもぐっている。

「な、何!?」

「ちょっと待って、襲撃だったら何か音が……」

 リリアを落ち着かせるように言ってから部屋の外に向けて聞き耳を立てると、忙しない足音に混じって金属音と金切り声のようなものも聞こえてきている。

「い、イネ……これって襲撃とか?」

「わからないけど……タイミング的にはそう考えるのが自然かも。とりあえずキャリーさんたちのところに行って合流したいかもだけれど……」

 流石に震えているリリアを1人にして飛び出して行くわけにもいかない。

 もしかしたらマッドスライムがここの水回りからにゅるって出て来る可能性も0じゃないし、人間の襲撃者だった場合リリアと一緒に向かうほうがリスクが高いから迂闊に動くことができない。

「ど、どうしよう、ばあちゃんがいるって言っても精神魔法とかを遮断する手段ってあるから心配……って何もできない私が言うのも変なんだけどさ……それに狙いが貴族の人たちっていうのなら余計に周到な準備しているだろうし、イネが行ったほうがいいんじゃないかって思うんだけれど……」

 リリア、この状況で、あのチートなムーンラビットさんの心配って……キャリーさんたちの心配もしてイネちゃんが向かったほうがとかも言っちゃう辺り優しすぎないかな。

「確かに心配だし、対人間ならイネちゃんはお父さんたちから叩き込まれた全部を発揮できるけれど……それならそれでイネちゃんとしてはリリアを1人にして置けないかな」

 じゃあ私も一緒に行く!っていうのならイネちゃんとしては拒否をするつもりはないのだけれど、動物さんやゴブリン、マッドスライムのようなのが相手ならリリアも大丈夫なんだろうけれど、人間が相手ってなると流石に色々とダメになるみたい。

 いやまぁまだ確かでは無いけれど、高確率で人間と命のやり取りを行う可能性があるっていう状況は、一般人の思考をしてたら普通はリリアの反応になるよね。

 イネちゃんはなんというか……お父さんたちに色々鍛えられた時にその辺の忌諱感も軍人さんメンタルに訓練されてたりするから大丈夫なんだけど、流石にイネちゃんが一般人枠じゃないのは自覚しているので残念でも何でもない。

「イネ……」

 イネちゃんを見つめながらリリアはイネちゃんの名前を呟くと自分の頬をパァンと叩いて小さく「よし」と言葉にしてから。

「行こう、執務室に!」

 そう言って配膳台を掴んで。

「……ごめん、ドア開けてもらっていいかな」

 真剣な表情を崩さずに言うリリアに笑いそうになりながらも、イネちゃんは護衛として会議に参加していた手前フル装備、P90をマントから抜きつつドアノブを回しドアを少し開けて廊下の様子を確かめると、先ほどの足音が嘘のように静かで誰の姿も確認できなかった。

 深呼吸をしてから廊下に躍り出てしっかりとクリアリングをしてからリリアに合図を出して誘導する。

「き、緊張する……」

「……イネちゃんも特に何も言わなかったけど、なんでお料理も持っていく必要が?」

「もし襲撃だったら、敵もその……びっくりするかなって」

 んー確かにちょっと意表を突けるかもしれないけれど……まぁいいか。

「でももしかしたらお料理が無駄になっちゃうかもしれないから、そこだけは覚悟しておいて」

「う、それは嫌だなぁ……食べ物を粗末にはしたくないし、ヌーリエ様に怒られる」

 あ、食べ物を粗末にしてはいけないって教義だったっけ。

 まぁイネちゃんとしても、食べ物を粗末にするのはしたくないし、何よりリリアの美味しいお料理が無駄になるのはイネちゃん自身が嫌だ。

 というわけでキャリーさんたちに何かがあったとしても皆とお料理を守る気概で廊下を進むと、金属音と一緒に執務室付近の空気が振動しているのがで確認できる。なにあれ凄い。

 自然現象ではないのはすぐにわかったけれど、うっかり触ったりすると何かとんでもないことになりそうなので魔法の知識があるリリアに確認してもらう。

「ねぇリリア、あの空気自体がもやもやーってしてるのって……」

「ばあちゃんの魔法だと思う。普段不可視で行使するのを意図的に可視状態にしているんじゃないかな……理由は、わからないけれど」

「ってことは精神魔法?」

「うん、触っても特別体が弾けたりとかは無いはずだけれど……ちょっとしばらく動けなくなるくらいはあるかも」

 基本的に、こっちの世界出身の人は精神魔法に対して耐性を持っている。

 でもムーンラビットさんがその耐性を無視して精神魔法をかけれるほどの実力があるのは、これまでの出来事でこれでもかってくらいに理解しているので、ここはリリアの言葉を素直に信じておくことにする。イネちゃんはビクンビクンしたくないのだ。

 しかしそうなると執務室に入れないということになる……どうしたものか。

「ん、ん~……」

「いきなり唸り出してどうしたのリリア」

「あ、いや……ばあちゃんの魔法と思ったけどこれ、なんか感じが違うなぁって。似ているんだけど、どことなく違う感じが……」

「どゆこと?」

 魔法の知識が無いイネちゃんにとって、その辺の違いはわからない。

「とりあえず、ばあちゃんの魔法でも大丈夫な私が触って確認してみる……精神魔法ならばあちゃんのが大丈夫なら何があっても大丈夫ってくらいだし。違った場合は……イネ、任せた」

「ってその流れはダメな流れだよリリア!」

 イネちゃんが止めるのに届かず、リリアが小走りでもやもやーとしたところに触れると空気が爆発したようになって……。

「……うん、大丈夫。こればあちゃんのじゃない、それに似せたただの人払いの魔法で……ばあちゃんがいるがここにいるって把握している人間じゃないとこんなの作れないよ」

「リリア!」

 イネちゃんはそういうリリアをギュッと抱きしめて……いやまあ身長差でイネちゃんの頭はリリアの胸に埋まるんだけれど、今はそういうのはどうでもいい。

「びっくりしたんだからね!何か危ないものだったらどうするつもりだったの!」

「あ、うん……ごめん。でも今魔法に関してなんとかできるのって……」

「それなら別に隣の部屋からとか色々迂回できたから!選択肢はむしろ多くて悩んでたイネちゃんも悪いけれど、無茶はしないで!」

「……ごめん、次はちゃんと相談するよ」

 でもリリアがここまで大胆に行動するとは思わなかったから本当にびっくりした、確かに魔法に関してはイネちゃんよりもリリアのほうが圧倒的に上だから、そういう意味では正しかったのかもしれない。ちゃんと相談して欲しかったけど。

「……よし、過ぎたことに関してはここまで。予定通り執務室に入ろう」

 実のところちょっと前まで聞こえていた金属音は消えている。

 リリアが触ったことで発動した魔法の音で止まっただけなのか、それとも中で起きていた何かが終わったのかはわからないけれど、イネちゃんはどちらでも対応できるようにP90を持ち直して、ついでに左手でナイフを逆手に持ち格闘戦にも対応できるようにしておく。

「じゃあ、開けるよ」

 リリアが合図のようにそう言って扉を開けると、剣を構えたヨシュアさんにシードさん、キャリーさんを庇うようにムーンラビットさんが立っていて……ムーンラビットさんのお腹には何本かのナイフが刺さっているのが確認できた。

「リリアは早く外に出るんよー!」

 ムーンラビットさんは今まで聞いたことのないような強い口調……語尾は伸びているけど抑揚がはっきりとした言葉を大きな声で叫んだ。

 それと同時に先に部屋に入ったリリア、そしてドアから死角になっている場所から殺気を感じたイネちゃんは飛び出してP90をバーストしてから、更に気配を感じた方向にナイフを突き出すと、そこにはヨシュアさんがイネちゃんに向かって剣を振り下ろしていた。

 慌てて剣をナイフのツバで受けてから状況を確認すると……。

「こ、これが異世界の武器……なる程強力ですね」

 P90を発砲した方向から女性の声が聞こえてきた。

「まぁうん1000年前に私の部下だったあんたが、なんで暗殺なんてやってるんかねぇ。そういうの嫌いだったろうに」

「ムーンラビット様にはわかりませんよ、貴族側に捕らえられて、戦後にもシックに行くことができなかった私たちの立場は」

「ある程度は予想つくけど、淫魔ならそういう状況も楽しめって私は言っておいたと記憶してるんけどなぁ」

「逆ですよ、そういったことを一切されなかった上に、食事は他の種族よりも少なくほぼ水分のみだったんです。ムーンラビット様はそのような状態でも楽しめると?」

「肉体的苦痛なら快楽に変換できる……けどまぁそういうことなら、暗殺者として闇に紛れることを条件に享受したんじゃないん?」

 ……ムーンラビットさんの旧知の方でしたか。

 しかも淫魔っぽいから、さっきのP90もあまり効果がなかったのかな、結構余裕そうに会話している辺り肉体的なダメージは本当に意味を成さないのかな。

 しかしそうなると、割と体重かけられてじわじわと剣の刃が近づいてきているヨシュアさんの状況は、精神魔法で操られているってことなのかな?

「でもまぁ、私がいるって分かっておきながら実行した度胸だけはさすがと思うんよー、でそこの坊主の支配を解いてくれないかねぇ」

「貴女が解けばいいだろう、それともそれをする余裕もなくしているほど弱っているのか、ムーンラビット様」

 なんというか、凄い状況に飛び込んでしまったのだけは把握したのだった。

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