第81話 イネちゃんとヴェルニア会議

「えーこれより、オーサ領の首都であるオーサが陥落したことに対しての対策会議を始めるんよー」

 いつもどおりのテンション、口調で会議の開始を宣言するムーンラビットさんに、とりあえずヴェルニアのお役所のトップの人たちと、駐留していた冒険者がキャリーさんを上座として食堂に集まっていた。

「えっと、あなたは?」

「えー会議の議事録及び進行を担当させてもらうムーンラビット……まぁたまたま居たヌーリエ教会の司祭なうさちゃんよー」

「司祭様でしたか!これは失礼……」

 うさちゃんとテンションは別にいいんだ……。

 あ、イネちゃんはキャリーさんが信頼している冒険者ってことでヨシュアさんと一緒にキャリーさんの左右に座ってる。

 本当なら武器を持ち込んだらいけない場だと思うのだけれど、状況と昨日のミルノちゃんが攫われたっていう情勢を鑑みて、むしろ護衛つけてくださいって出席者から言われたから急遽イネちゃんも出席することになったのである。

「近隣の街や村もヴェルニア同様に、独自に会議を始めたようです。今後彼らと協力することにはなるでしょうが、丁度オーサの街を離れていた宰相が招集を行うまでは私たちの立ち位置を決めておかねばなりません」

「比較的独立してもいいというシード様の意向がこの事態にどう影響するか……最悪我々ヴェルニアだけでオーサを襲った賊と対峙することになりそうですが」

「いやヴェルニアとて、今の状況では兵の出兵はおろか兵站の供出すら難しい。諸侯は皆その事実を知ってはいるが、先日反乱軍を退けたというのも事実だからな、何かしら要求されるのは確実だろう」

「それは教会の介入のおかげであっただろう!我々はむしろ劣勢で籠城するしかなかったのだぞ!」

「近隣諸侯の状態を把握している方がいらっしゃれば、発言をお願いします」

 うわーこれが会議が踊るって感じだね、もうレッツダンシン!って感じ。

 ただやり取りを聞く限り、出席者は基本的にはシードさんを助けるって意識は確かだろうなっていうのはわかる。

「……包囲がなくなった直後に早馬は出していますが、流石にまだ戻ってきておりません。オーサ領の有力な貴族の街は教会はおろかギルドすら存在しない場所もあります。ギルドを通じてトーカ領を含む他の地域にも情報収集を依頼しておりますが、街道各所にマッドスライムが出現するようになった為中々情報が手に入らないのが実情です」

「そう、ですか……」

「申し訳ございませんキャリー様、妹様の件がありそちらでも情報収集が必要であらられるのに」

「いえ、今の私はヴェルニア家の当主なのです。ですからこの件を優先するのは当然のことで、皆さんはお気になさらないでください……」

「キャリー様……」

 うーん、貴族の世界。

 ミルノちゃんの件は会議が始まる前にイネちゃんによろしくって言ってきたからこその台詞だと思うけれど、表情を変えずにあぁいうことを言えるのって凄い。

「今、包囲軍の総合指揮をしていたであろう将軍の尋問も行っております。イクリス様は教育係でもあった将軍の意見に疑いなく信じてしまっただけで、詳細は何も知らないことがヌーリエ教会立ち会いの元確認をとっております」

「そうですか、何か判明すれば良いのですが……イクリスのリーグ将軍はあの社会的地位にあって両腕をマッドスライムとして変化させたと聞いております。本当に喋るでしょうか」

「そこは私からお願いを致しまして、ムーンラビット様と異世界の技術を使って尋問を行えることになりましたのであまり心配はしておりません」

 ……ボブお父さんって現役当時は鬼軍曹と呼ばれていたってルースお父さんから聞かされたんだけど、将軍さん大丈夫かな。

 まぁ今イネちゃんが心配しても、絶賛別室でボブお父さんによる尋問が行われてたりするんだけどね。

 ムーンラビットさんのほうは……うん、気にしないようにしておこう。

「なんと、異世界の。そういえばキャリー様の横にいる冒険者の方は見慣れぬ服装をしていらっしゃる。ですがどちらが異世界の技術をお持ちなので?」

「どちらでも構わないでしょう。それを貴方が知ってどうするのですか」

「そ、それはそうですが……」

 今のキャリーさんの受け答えは、イネちゃんを戦力として見られないためとかかな?

「ヨシュアさ…‥んもイネさんも、どちらも私の良き友人です。そしてその前に冒険者です。彼らを戦力として見るというのはギルドはおろか教会からしても協定違反と言われて見捨てられる要因になりえます。私としては優先して助けていただけるだろうという思いもあるので、人のことをどうこう言えたものではありませんがね」

 そうやってキャリーさんが自嘲する形で話を止めると、説明を求めてきていた役所の人が少し前のめり気味だったのが椅子に深く座り直してとりあえず引いたことがわかった。

 まぁこれに関してはイネちゃん、ちょっと複雑な心持ちではあるんだよなぁ。だってイネちゃん、自分の未熟を理由に離れていたわけで……まぁヨシュアさんがいるなら大丈夫っていう信頼感があったからでもあるけれど、キャリーさんはずっと引き止める感じもあったから、イネちゃんとしては少し後ろめたいのだ。

「えっと、ともあれヴェルニア全体としてはシード・オーサを助けるってことでええん?それができる力の有無は別としてという注釈がつくってことを前提とするけど」

 ムーンラビットさんが今回の会議の総括的な言葉を言うと、そこにいる人たち全員が首を縦に振ったのが見えた。

 なんかこういうのってドラマとかでもだけれど、なぜか示し合わせた感じに皆動作が揃ったりするよね。ドラマのほうは台本でーとかわかるんだけど、実際の会議で揃う瞬間を目の当たりにして少し関心してしまう。

「さて、次に具体的にヴェルニアが今のオーサ領情勢でどう動いていくのかということを話し合おうと思うんやけどー……案外集まりが遅くなったのもあって丁度お昼になってしまったということもあるんで、ヌーリエ教会があり合わせではあるけどご飯を作ったから配膳させてもらうんよー」

 その言葉に合わせる形で食堂の扉が開いていい匂いが漂ってきた。

 でもリリアが何やらいかがわしい感じの格好になっているのはなんだろう、普段の服の上に大きめなエプロンをつけているだけなのに、正面からだとまるでエプロンだけしか身につけていないように見えてしまう。

 出席者の殆どがそのリリアに目を奪われているような感じだけれど、イネちゃんは美味しそうな匂いの元に目を移してご飯を確認する。

 ボブお父さんから機材一式を受け取って捜査するっていうから、朝ごはん食べてなかったんだよね、リリアのお料理も美味しいのが確定しているから本当楽しみ。

 楽しみ、だったんだよなぁ……美味しい匂いを漂わせているのは確かなんだけれど、リリアの持っているお盆の上には焼きおにぎりと、汁物らしいお茶碗、それとつまめるように切り分けられた根菜……所謂野菜スティックっていうものだった。

 もっとこう、白いごはんをかきこみたくなるようなガッツリしたのが欲しかっただけに少しがっかりするけど、実際目の前に配膳された焼きおにぎりとお味噌汁、それに野菜スティックはとても美味しそうだった。というよりこれは絶対に美味しいっていうのがわかる感じに彩りまでしっかりと考えられていて、このわずかなメニューだけでも見て美味しいを実感したよ。

「祖母の急な要求だったのでこの程度しかご用意できませんでしたが……どうぞお召し上がりください」

 リリアはそう言って深々とお辞儀をするけど、丁度今日の服がチューブトップだったからか肩紐が見えない。

 出席者の何人かガッツポーズしているのが見える辺り、そういう人ってどこにでもいるんだなぁと実感するとともに、そういう人が役所のトップなのはどうなんだろうという心配もしてしまう。

 まぁ、そう言われる前にイネちゃんは既に焼きおにぎりを口に運んでいるわけだけれど……お醤油で炙る感じに焦げ目がつくまで焼かれたおにぎりは、少し冷やしてあるピリ辛のお味噌が少しつけてあっていいアクセントになっていて食が進む。

 まずい、このお味噌もっと欲しい……と思ったところにオオル君がリリアが離れた後からすぐにお味噌とマヨネーズっぽいソースが盛り付けられた小皿をおいて回っていた。凄くありがたい……ありがたい……。

「さて、食事をしながらで構いませんので、ヴェルニアの現時点での蓄えと食料備蓄について報告をお願い致します」

 イネちゃんが野菜スティックを手に取り、お味噌をつけようとしたところでキャリーさんが話を進めだした。

 そういえば会議の場であって会食の場じゃないんだった。

「資金、食料はヌーリエ教会の協力を得られたとは言え、流石に今すぐに行動を起こしたり、兵を増やすのは不可能と言えます。建築や農具を含む武具を作るための資材に関しては、元々ヴェルニアの地下には大規模な鉱脈がありますので問題にはならないとは思いますが……」

「資材の方でも問題が?」

「はい、全ての部署で相当量の資材の要求があります。時間があれば供給に問題はありませんが、資材に関してもすぐさま解決ということは資金面の問題を考えた場合無理でしょう」

 それはつまり、全部足りていないってことだね。

「解決策はあるのでしょう?」

「資金以外に関してはヌーリエ教会の助けもあり時間が経てば自然に解消できる問題です。しかしながらオーサ領における現時点での情勢を鑑みた場合、資金面に関しては難しいでしょう」

「オーサ領は元を正せば武門の貴族の集団ですからね、ヴェルニアはその武力を下支えする後方を守る家であるとは言え、取引相手となるオーサ領での通商はほぼ不可能と考えれば、仕方ありませんか……」

「そこでキャリー様にご提案がございます。トーカ領及びそちらからの経路を使って王都と通商を行いましょう。これも今すぐどうにかなるということではありませんが先々を考えればヴェルニアを支える土台となるでしょう」

「そうですね、確かに。現時点でもトーカ領と王都とは取引がありますが、前当主の際に一時的ではありますが取引が停止してしまいました。これにより今ヴェルニアは商取引において信用が落ちていますので、新規開拓で新たに0から信用を築くのは良いことでしょう。ですが……やはり直近の問題には対応できませんね」

 キャリーさんと役所の人が揃ってうーんと唸りだし、イネちゃんが野菜スティックの3本目を咥えようとしたところで、ミミルさんが慌てた感じに入ってきた。

「た、た、たいへ……ん」

 今の『ん』は結構破壊力ある感じだった。

 で、ミミルさんがこうやって入ってきたということは、何かしら事件なんだと思うのだけれど……。

「会議……いや、会食中であったか。連絡も無しで申し訳無い。我はシード・オーサ……先日所領の城を陥落させられた情けない武門貴族の当主だ」

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