第41話 イネちゃんとオーサ騎士団

「我らはシード・オーサ様に仕えし、オーサ騎士団第13番隊!調査騎士の報告によりはせ参じさせていただいた!協力体制を敷いているヴェルニアギルドの長、アルク殿はおられるか!」

 応接室にいるはずのイネちゃんたちにも、はっきりと聞き取れるほどの音量での叫びが聞こえてきた。なんかもう体育会系っぽいね、騎士団だけど。

「あ、じゃ、じゃあ出迎えに行ってきます……」

「私もいくよー、勇者が一緒のほうが都合良さそうだしね」

 ギルドのお兄さん……アルクって名前だったんだね。

 そしてヒヒノさんも立ち上がって応接室を後にした。

 ココロさんとヒヒノさんって、言葉で確認しないで役割分担するよね、双子って言ってもここまでできるものなんだと関心しちゃう。

「では騎士団の方が来られるまで、私たちは休憩としましょう。特に戦闘の激しかった面々は横になっていても構いませんよ」

「そう、じゃあ私はちょっと横に……」

 ココロさんの言葉にミミルさんが真っ先に横になった。

 魔法の連続使用で疲れたのかな、今回はイネちゃんもお世話になったし、本当ありがとうだね。

「おう、ここで良いのですね!」

 とミミルさんが横になったと同時に勢いよく扉を開けて、すごいモミアゲの顔が濃い人が入ってきた。

「ぬ、結構な人数がおられますな!私はオーサ騎士団第13番隊隊長のベアクレンスである!」

 とふんぞり返る感じで自己紹介してきた。自信と誇りと癖なんだろうなぁ。とりあえずイネちゃんの中では熊さんと呼ぶことにしよう。

「私が勇者ココロです。こちらの方々はキャリー・ヴェルニア、及びミルノ・ヴェルニアと共に冒険をしていた冒険者の方々です」

 特別名前では紹介されなかったけど、ココロさんの手が丁度イネちゃんとヨシュアさんの中間地点くらいを示す感じで動いたから、イネちゃんとヨシュアさんの2人だけではあるけど会釈をしておいた。

 で、顔を上げた時に視界に入ってきて気づいたんだけど、ジャクリーンさんが少しそわそわして、ゆっくりとミミルさんの隣に移動しようとしてるのが見えた。一体何をしているのだろうか。

「ん、そこにいるのも冒険者かな」

 あ、丁度熊さんがミミルさんのほうを見た。

「え、えぇそ、そうですことですのよ……」

 えぇ……ジャクリーンさんそのうわずった感じの声は一体なんなの。

「ん、ん~……。もしかしてフルール様のご息女ではありませんか?」

「な、なんのことでしょう。私はそのような貴族様とは……」

「やはりそうだ!二刀風神のフルール様のご息女、ジャクリーン様ではございませんか!」

 ん、熊さん今なんて言った?

 ジャクリーンさんのことを様付けしてなかった?

 後言葉の流れ的に貴族って言ってなかった?

「い、いいえ、私は冒険者ジャック……そう、ジャックですことよ!」

「それはジャクリーン様がお忍びで使われる偽名ではありませんか、幼少期の頃、剣の手ほどきをさせていただいたベアクレンスですよ、お忘れになられたのですか!」

 そこまで熊さんが言い切ったところで、ジャクリーンさんがすごく、すごく深い溜息をついて寝転がろうとしていたのだけれど、起き上がった。

「そうですか、私がフルール家のジャクリーンであるというのならば1つ、お願いを聞いて下さりませんかね」

「はい、なんでしょうか!」

「冒険者である私に様をつけないでください。後、本題に早く移ってください」

 何とも言えない圧のある笑顔でジャクリーンさんがそう言うと、熊さんが黙って頷いた。とりあえず2人の力関係は概ね理解した。これはイネちゃんじゃなくても理解しやすいよね。

「えっと、話を進めてもよろしいでしょうか」

「あ、あぁこれは勇者殿、大変な失礼をお見せいたしました……」

「それは別に問題ないのですが、キリー・アニムスはあなた方にお任せするのは当然として、今後このヴェルニアの統治に関しては他の貴族が担当なさるのでしょうか」

 まぁ、ココロさんの言うことは当然だよね。

 首謀者は然る機関に受け渡した後のこと、現状がかなりひどい状態だもん、しっかりと立直せる人じゃないと街が1つなくなりかねないもんね。

「我が主は、既にこの場にヴェルニアの人間がいるのなら、その者に任せると仰っております」

 え、それってキャリーさんかミルノちゃんに任せるってこと?かなり丸投げ気味だなぁ。

「ですが、お二人共まだ統治というものに関しては……」

「勇者様の仰るとおり、キャリー様もミルノ様も領地における継承順位は下位でしたので、今すぐ統治できる程の教育は受けておられないでしょう。故に主はヌーリエ教会の者がこの場に来られるようにしたのですから」

「……そういうことですか、まぁいいでしょう。勇者としてこの街の現状は看過できないのは事実ですし。ですがオーサ領として教会が介入する事態に、何かしら妨害があったりとかはしませんよね」

 ん、それってどういうこと?

「先代の時ならば否定できませんでしたが、今のシード様はヌーリエ教会に対しては受け入れる意向ですので、反対派の貴族が居ても抑えられると思います」

 あ、そういうこと。

「オーサ様にばかり都合が良いですね」

 ココロさんちょっと怒ってるかな、さっきのイネちゃんの尋問風よりトゲを感じるぞ。

「まぁ、ここまで都合がいいと最初から計画していたのかなって疑いは当然出て来るっていうのは、騎士さんもわかるよね?」

 ヒヒノさんは直球だなぁ、ココロさんは一応オブラートに包む感じだけどこっちはデッドボールの速球だねぇ。

「仰るとおりですが、統治において優れ、シード様への忠誠も高かったヴェルニア家を失うというのはオーサ領全体において痛手なのです、我々としては今回の事件の首謀者はアニムスについては再三説明を求めていたのですよ」

 その結果がけむにまかれ続けたんだね、もうちょっと立ち入ってもよかったと思うけどなぁ。

「では次に私たちが聞きたいことですが、名代騎士が訪れて報告に帰ったのはつい先日で、あなた方の部隊は明らかに到着が速かったですよね。ここからでも聞こえる程の馬の足音です。それなりの規模の騎士団が移動した場合、まっすぐ、迅速に動いたとしても1週間はかかりますよね」

 お馬さんの足音って、そんなにしたっけ。

 イネちゃんはそれほど聞こえてなかったんだよなぁ、それでも複数のお馬さんがいるっていうのがわかるくらいだったし、慣れてる人が聞けばわかりやすかったのかもね。

「シード様は元よりアニムスに対して快く思っていませんでしたので、即時行動できるように近場の街に、感づかれないよう分散して待機しておりましたので」

「……連絡はギルドを通して、ですか」

「その手の技術は、まだ貴族保有の騎士団などの詰所には配備しきれておりませんので、はい」

「面倒なところは教会に丸投げ、美味しいところは自分たちで。勇者は便利屋でも道具じゃないんだけどなぁ」

 あ、イネちゃん見逃さなかったよ、今ヒヒノさんちょっと笑ってた。

「さて、これ以上は叩きすぎという抗議が来そうなので次の質問で終わらせますが、作戦行動を行うのに、ギルドの通信網を利用したにも関わらず現地ギルドに連絡が無かった理由だけ、お教え願いますか」

 ココロさんも次で最後と言ってから、イネちゃんも気になったところを質問した。

 軍事作戦なら直前まで知らせないでおくのはわかるけど、現地で動ける人間にまで知らせないっていうのは機密性確保にしてもやりすぎだしなぁ。まぁ無くはないことではあるけど、当事者としてみたら不満が出るのは当然だよね。

「騎士団の数を悟られたく無かったのと、現地ギルドは職員の方々がどれだけ注意していたとしても、漏れる可能性があるため今回のような形をとらせていただきました」

 徹底した情報漏えい対策だなぁ、それはいいんだけどアフターケアができないと不満が溜まりやすいってお父さんたちから聞いたなぁ。

 今回の場合、イネちゃんたちっていう外部の人間だったから致し方ない部分は多いと思うけど、逆に言えばそのアフターケアの部分が重要になってくるよね。

「ひとまずはそれで良しとしましょう。それで、オーサ騎士団はキリーを連れ帰るのですか」

 ココロさんが少し物腰柔らかな口調になって質問する。

 こっちのほうが外向きの奴なんだろうなぁ。

「いえ、まずはヴェルニアの街周辺で確認されているものの討伐をある程度行ってからですね。我々も街に入る直前に襲われましたので、あれの驚異は放置できるものではないと判断いたしました」

 あぁわかる。あれを放置すると、復興とかするのに必要な資材とかあっても外部から持ってくるのが難しくなるもんね。

 ただ復興と言ってもキャリーさんとミルノちゃんのお父さんが統治していた時代のものをそのまま使えるだろうし、しばらくは大丈夫だと思うけど……保証は無いもんなぁ。

「わかりました、では我々も数日滞在せざるを得ないですし、街の外における討伐はお任せいたします。規模、範囲共に組織的に活動可能なそちらのほうが外の討伐は効率がよいと思いますので」

 うわ、ココロさん満面の笑みだ。

 これ絶対ココロさんとヒヒノさんが2人だけで全力を出せば短期間で済む奴だ。

「そうですね、街道の再整備も必要ですしその分担で我々も問題はありません」

 熊さんのほうもちょっと苦笑いしている辺り察してるね、これ。

 でもまぁ、インフラ周りの工事を含むのなら専業軍人が動員されるのは仕方ないしね、特にこっちの世界の文明レベルだと人海戦術による土木工事になるだろうし。

「僕たちもキャリーとミルノちゃんが心配だし、ココロさんたちと一緒にしばらく滞在しようか」

「それは構わないけど、食料のほうはどうするの」

 ヨシュアさんが決めて、ミミルさんが聴いてるけど、イネちゃんとしては一度戻りたい。予想以上に弾薬使っちゃったからね。

「そこは問題ありませんよ、ギルドを通じて師匠と連絡をつけて支援物資を送ってもらいますので。流石に平民階級の方々が軒並み栄養失調状態であるのは、勇者以前にヌーリエ教会の元司祭候補として感化できませんので」

 ココロさんって司祭候補だったんだ……。

 と、そんな感想抱く前に、ココロさんがあの町と連絡を取るのならイネちゃんもついでにやってもらいたいことがあるのだ。

「えっとココロさん、ついでで、できればでいいのだけど。イネちゃんの武器弾薬も持ってきてもらいたいかなって」

「そういえばイネさんの武器は異世界のものでしたね、強力な分制約が大きいんでしたか」

「うん、弓矢で言うところの矢、魔法で言えば触媒に当たるものが結構大量に必要だからね。後戦闘中雑に扱っちゃった武器もあるから、その整備用パーツもね」

 その時、イネちゃんはココロさんに伝えること集中していて熊さんの視線に気付かなかったのだった。

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