第11話 イネちゃんと換金と晩ご飯

「皆さん、お待たせしまし……って凄い量ですね」

 素材売却の計算を終えたケイティお姉さんがイネちゃんたちのテーブルに来たときの第一声はそれだった。

 うん、イネちゃんはその言葉が出ちゃった気持ち、すっごいわかる。

「ウルシィはもうちょっと食べれそう……」

 ちょっとまって、20皿の大台乗っちゃう?

「ウルシィ、食べ過ぎ。それにイネさんのお父様に頂いたパンがあるでしょう、保存があまり効かないらしいから、そっちにして」

 流石にというか、キャリーさんが止めてくれた。ありがとうキャリーさん。

 割り勘で押し通った手前、支払いを渋る気はまるでないけど、流石にメニューの値札とウルシィさんの食べた量を照らし合わせてちょっと危ないかなぁと思いつつあったから本当にありがとう。

「うー……でもわかった、あのパン美味しかったし」

 ウルシィさんも納得してくれたようでイネちゃん嬉しい。

「と、驚いて止まっちゃってたわ。これが熊討伐分の報酬で、こっちが持ち込んでくれた素材の金額。内訳は紙に書いてあるから確認をお願いします」

 ケイティお姉さんが再起動して、ヨシュアさんに2つの袋と一枚の紙を手渡した。

 ヨシュアさんが受け取るときにジャラっていう金属音が聞こえたから硬貨の入った袋かな。紙はレシートとか、見積もり一覧みたいなものだとイネちゃんは睨んだ。

「……本当にこんなに高い値段で買い取ってくれるんですか」

 おや、ヨシュアさんがすごく驚いた声でケイティお姉さんに聞いた。

「とても丁寧に解体されたのでしょう、毛皮も牙もどれもそのままお店に並べられるくらいの質でしたもの、専門店の仕入れ金額よりは少ないですが、ギルドの鑑定担当者全員とギルド長である私の話し合いによりこれが妥当だろうという結論に至りました。最も、あの品質なら専門店で売るともうちょっと色がつきそうで申し訳ないのですけどね」

 解体を担当したのはイネちゃんとウルシィさんを中心にヨシュアさんとミミルさんが手伝ってくれて、キャリーさんは解体中の周辺警戒。無いと本当大変なことになりうるからある意味最重要の役割をやってもらったのだ。

 二人でどれだけ綺麗にできるか競いながら解体したからかな、コーイチお父さんとムツキお父さんに教えてもらった技術もかなり凄かったのもあるとは思うけど、ウルシィさんの解体速度はイネちゃんには真似ができないほどだったんだよなぁ。

 というか焼夷グレネードでファイヤーした子もいたのに品質って大丈夫だったの?

「特に火で炙られたものは最近衛生面の重要性を叫ばれている地域では珍重されますので、世界相場でも高値なんですよ」

 あ、よかったんだ。

 でも炙るってレベルじゃなかったけど、こっちの熊さんの体毛ってそこまで頑丈なのかな、ちょっと知りたい。

「どなたが解体なされたんですか、どういう経緯で技術を身につけたのかを聞いてみたいです」

 ケイティお姉さんが興味津々。解体のうまい人はいっぱい知ってそうだし、本当にただの興味なんだろうけど……イネちゃんとしてもウルシィさんのあのスピードの謎は知りたいかも。

「ウルシィの村は動物の毛皮が生業だったからな、ウルシィもお手伝いしてたから得意」

 おぉ、凄い見事なドヤ顔。

 でもそのドヤ顔が許される手際のよさだったもんね、ウルシィさん。

 日常だったからこそ高品質でもあの速度だったんだね。

「でもイネもすごく手際がよかった」

 え、イネちゃんに話題来ちゃうの?

「作業スピードはウルシィのほうが上だったけど、解体の無駄のなさはイネのほうが上だったよね」

 ふぇ、ヨシュアさんがウルシィさんを援護した。

 これは説明しなきゃいけない流れだよねぇ、ケイティお姉さんやキャリーさんが興味津々な目でイネちゃん見てるし。

「んーイネちゃんはお父さんたちから教えてもらっただけだよ」

 端的に事実だけを伝える。

 多分これだけでケイティお姉さんは納得してくれそうだったし。

「教えてもらったって、熊の解体をですの」

 あぁうん、キャリーさんはお父さんたちと一回あっただけだもんね、しかもボブお父さんのことを見て素手で熊倒しそうとか言ってたもんね。

「熊さんの解体は今日が初めてだったよ、狼さんは何度かあったけど……動物さんの体の構造を理解してれば大体解体できるし、技術はそのまま応用できるよ」

 イネちゃんはご本が大好きだった読書家さんだったのだ、その時いろんな図鑑も読破していたし、こっちの熊さんも性格が違うだけで身体構造は同じだったから思い出しながらナイフを動かすだけだったしね。

「いや、それ普通に凄いよね……」

 とヨシュアさんが呆れ半分な感じにいう。

「イネちゃんはその普通がどの基準なのかわからないからなぁ、イネちゃんの基準はお父さんたちだから、解体ができる人の中では大体中間くらいだったよ」

 コーイチお父さんとムツキお父さんがすごく上手くて、更にスピードもウルシィさん並だった。

 ルースお父さんとボブお父さんはあまりやらなkったらしくって、そこまで技術が無いって自称してたなぁ、ルースお父さんは実際すぐ超えれたけど。

「あぁ、あの方々も確かに質の良い素材を卸してくださってましたが……基本は害獣駆除を優先なさっていましたから」

 ここでケイティお姉さんの言う害獣とは『ゴブリン』のこと。

 ちょっとでも目撃情報があったらすぐ駆けつけて巣ごとって感じにやってたらしい。

 このらしいっていうのは、お父さんたちじゃなくお母さんから聞いたからなんだけどね、イネちゃんのような子を増やさないようにってことで頑張ったらしいの。

「あの素手で熊を倒せそうな人たちが……天は二物も三物も与えることばかりですね」

 キャリーさんがそんなことをうつむきながら呟いた。

 キャリーさん、出自的に魔法が使えたりするしもしかしたらいいところのお嬢様だったりするのかな。そうだったら戦闘ができないとか、生活スキルが低かったりとかわかるし。

「でも害獣駆除……か、思うところがあったんでしょうね」

「あの村が害獣被害にあって、色々なところに影響が出ましたから。あの村はこの辺一帯における食料生産地の一つでしたし」

 ん、それイネちゃん知らない。

 確かにお父さんとお母さん、村長とか呼ばれてたのに畑に出てたから大変なのかなって思ってたくらいだったのに。

「それって普通に国が傾きそうな事案なんですけど、大丈夫だったんですか」

 ヨシュアさんが聞くとケイティお姉さんがイネちゃんのほうを見てから答える。

「それはね、その子のおかげなのよ」

 え、イネちゃん?

 イネちゃん何もしてない、そんな記憶ないぞぉ。

「イネちゃんが異世界の人に引き取られることになったことで、あちらの世界にこっちの世界の存在が一般に漏れたとか、色々あったらしくて……人道的なんたらとかいう言い分をしながら食料品や薬を援助してくれたの。そこから異世界とこっちの世界のいろんな国と、ギルドが話し合った結果が今……本当はこれ、冒険者とかに話しちゃダメなんだけど、あなたたちはもうイネちゃんのお父さんたちと会ったみたいだから特別ね」

 といたずらを企んでる子供のような笑顔でケイティお姉さんはヨシュアさんたちに特別というフレーズを飛ばした。

 これは小悪魔的要素あるよね、ケイティお姉さんの年齢がちょっと気になるけど。

 ところで本当は話しちゃダメという単語でヨシュアさんは笑ってるけど顔色が悪くなったね、そりゃうっかりすると組織まるごと敵に回しちゃうから怖いよね、うん。

「それはそれとして、今の話しだとこの町って結構イネの居た世界と繋がりがあるように伺えるんですが……」

 ヨシュアさん、なんとなくだけど元々お父さんたちの世界の人だったとか、似たような世界から異世界転生とか異世界召喚しちゃったのかなと思っちゃうところがいっぱいあるよね。だから気になるのかな。

「ギルドが橋渡しのクッション役をする決まりになってるから、ギルドが統治してる町は基本的に異世界と何かしらの関わりがあるわね。この町はイネちゃんのこともあってニホンっていう国と繋がりが深いのよ」

「こちらからあちらの世界に行ったという記録はあるんですか?」

「私の知る限りはイネちゃんと、同様に孤児で、何らかの理由でこちらの世界にいられなくなった子供をお願いする形で渡った子になるわね。ただ総数は私も把握していないの、ごめんなさい」

「そうですか……いえ、本当はそれも話しちゃいけないことでしたでしょうし。ありがとうございます」

 あっちの世界と繋がってる場所は結構多かった気がするけど、全部把握出来ているのかな……。

 それにイネちゃん以外にも結構あっちに行ってたんだね、あっちの世界じゃイネちゃんのような子は基本的に公表しない決まりになってたから知らないのも無理はないんだけども。

 あとこれだけ気にするってヨシュアさん、異世界召喚とかそっち側なのかな。元の世界に帰る手段をーって感じの必死さを感じちゃったような気がするし。

 でも無理やり押し通るとかはしないみたいだね、というかそのつもりならイネちゃんがロッジに行ったところで試みただろうし、穏便で平和な形でって考えなんだろうね。

「自分たちの世界なのに知らないことばかりね……」

 ミミルさんが呟くと暗くなって……ってキャリーさんも暗い!

「お父様もお母様も、知っていたのかしら……じゃああの子もまさか異世界に?」

 うわ、キャリーさん何か重そうな事情がありそうなこと呟いてる。

 イネちゃんに手伝えることなら手伝えるけど、国のお偉いさんに歯向かってまでっていうのは流石に……お父さんたちならやりそうだけども、イネちゃんはできれば穏便に過ごしたいので遠慮したいかな、うん。

 こっちの世界で傭兵さんと冒険者さんになったのだって、イーアが生まれた世界を見てみたいって漠然としたものだし……あぁでも、がっつりお手伝いすれば案外色々知れるのかな?

「それはわからないけど……そうだ、異世界に行くことになった子の名前が判れば、渡ったかどうかの照合は取れたりするでしょうか」

 ヨシュアさんがケイティお姉さんに聞く。

 でもイネちゃん、割とそれは難しい質問な気がするかなぁ。ケイティお姉さんがこの町のギルドで権限持ってるのは確かだろうけど、そこまでの権限はない気がするんだよなぁ。

「ごめんなさい、私の権限どころかこの町のギルド長の権限じゃ難しいと思うわ。流石に国どころか、世界間の取り決めだから……」

 うん、そうだよね。

 特にあっちの世界は個人じょーほー保護とかで厳しいからね。仕方ないよね。

 まぁ逆にあっちで照会してもいいよって言われたら問題が一気に解決しそうでもあるけど。

「そうですか……いや、そうですよね。無理を言って申し訳なかったです」

 ヨシュアさんが謝る。

 でも誰も悪くないんだよなぁ、イネちゃんのほうでも少し手伝ってあげようかな、キャリーさんの言う『あの子』の名前が分かって、キャリーさんとの関係次第だとは思うけど、肉親とかなら可能性は高くなりそうだし。

 というかキャリーさんが今にも泣きそうな顔しちゃってるんだけどぉ!

 うーん仕方ない、イネお姉ちゃんが一肌脱いであげよう。

 イネちゃんはそう心に決めながら、晩ご飯のお支払いをしたのだった。

 ちなみに、予想より1.5倍ほどのお値段だった。

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