七章八話
ふと、侑里は小さな声で自分が呼ばれているのに気がついた。
「後ろ、後ろを見て」
その声が自分の名前を繰り返しながら侑里にそう促している。言われた通りに振り向いて、飛び上がった。椅子が倒れる音にも気がつかないほど驚いた。
雪河響が、いつもの半透明の姿で満面の笑みを浮かべて立っているのだ。ただ、普段の服装とは違い、高校の制服であるブレザーを着ている。おろしたてらしく、清潔な印象を受ける。
「びっくりした?」
「うわっ!びっくりした……。どうしたの?ユリ」
侑里は口をパクパクさせるが、言葉が出てこない。なぜ?どうして?いったいいつから?出歩いたりして大丈夫なの?多くの疑問が浮かぶばかりで、言葉にならないままである。萌子が心配そうに侑里の手を握るが、侑里は響から目が離せない。
「うーん。茂手木さんをびっくりさせたかったわけではないんだけれど、その様子からするととても驚いているようだ。満足したよ」
響はわざとらしくガッツポーズを決めてみせる。これ以上ないほどに満足げな表情だ。
「ももももももも萌子!桃ちゃん!私の正面に幽霊がいるんだけど見える!?たぶんもう死んでる魂だと思うんだけど!!!」
「楠木さん。何も叫ばなくてもいいじゃないか。それに僕はれっきとした人間だ。その内確かに死ぬだろうとは思うけれど、まだまだ元気だよ」
侑里が唖然とした表情になる。響が実体化したのだ。
「はじめまして。僕は雪河響と言います。楠木さんと同じ、『存在の糸』を操ることのできる神徒です」
「あの、雪河さん。あなた、もしかしてずっと『存在の糸』を使って姿を消していたんですか?」
桃が目を丸くして、響にきく。侑里の向かい側に座っていたのだから、響が視界に入っていなければおかしい。疑いの目を向けられて、響は首を横に振ってこたえる。
「どちらかと言えば、『存在の糸』を使って姿を現した、が正しい表現かな。ずっと僕は文学愛好会のある木造棟で幽霊をしていてね。この前とある人からもらった『これ』のおかげで、こうして元通りの人間になることができたんだ」
そう言って、響は握り締めていた右手を開いて、三人に見せる。そこには、『青銅の鍵』が握られていた。
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