六章四話
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侑里たちが亜空間に囚われ、菊川が旅館に戻っている頃、榊と斎藤は、二人で旅館の女将の話を聞いていた。一通りのことが片付いて、中学生たちを歴史博物館へ送り出し、ふと思いついて鬼の悲恋の話題を振ったのである。「歴史博物館程度のことは行くまでもなく全て理解している」という客が来ることもあり、そういった客との会話に使うとっておきの話を、女将は二人に語ったのだった。
薬師自身も、集落からは少し離れた所に住んでいた。自宅の近くに薬草畑が必要であったということが理由の一つではあるが、それ以上に大きな理由が二つあったのだ。
「その一つは、すぐに予想がつくような話だろ?」
「はい」
鬼の話を作りだしてしまうほどに、嫉妬心の強かった村人がいるのだ。薬師となれば、他所の土地に赴くこともあっただろう。知識も豊富だったに違いない。今に伝わる話では家族も特にいないとなれば、細やかで人格者だった可能性が高い。そのような彼女が疎まれない理由がない。薬師が村人から疎まれていたことは、悲恋の物語からも推測できる。「鬼」が恋した少女が、村人たちから罵詈雑言を浴びる部分があるのだ。その少女が、実際のところは薬師であると聞けば、納得できる罵倒がいくつもある。
「それでね、もう一つはもっと重大な理由で、もっと知られてないことさ」
猟師は「森の意志」という存在にとり憑かれた。これは、人がここに住むよりも古くからおり、今も時折獣の姿となってこの村に出現し、嵐の訪れを告げる。「森の意志」の神託を受ける、「森の意志」の祠の祭司の一族こそが、薬師の一族だったのだ。親を事故で失い、一族唯一の生き残りとなった彼女までもが死んでしまい、一番彼女に近かった男が「森の意志」に祟られた。そして、彼女の家を新たな祠とし、「森の意志」は今は無害な存在となった。
「この話は根拠がないって話だけどね。今もまだ薬師の家が残ってて、しかも当時の姿のまま少しも変ってないって聞くと、ちょっと本当じゃないかって思うだろ?」
その話が終わったころ、旅館の玄関で大きな物音が聞こえた。菊川の足音である。
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