四章十話

「そんなものですか?」

「そんなものだとも。青銅の門と言うのは右を左と言い、上を下と言い、白を黒と言った者から力を得る世界である可能性が高い。強い能力を持つ神徒ほどその側面が強いということは、君もよく知っていよう?」

ターナ値18。人工の技術だけで作りだすことのできるターナ値の限界だ。その値を繭のように展開して飛行機を包むことで、人間は大気圏外に出ることも、大気圏外から地上へ戻ることもできるようになった。その技術ターナ・スフィアの開発者は独自の感性を備えていたという記録がある。学生時代の苦労も、技術開発後の様々なしがらみも、枚挙に暇がない。『青銅の門』が出現した当時60代だった彼が、《それまでの自分の手記を応用してターナ・スフィアに代表される技術を作りだすことができた》と遺していることからも、彼の業は推して知るべしである。

「人とは違った側面で一つ君に言ってなかったことがあるな。ターナ・ボイスというものを知っているか?」

「ええ、噂程度には聞いたことがあります」

空間超越通信ターナ・ボイス。心を読む神徒の能力や念話テレパシーの使える神徒の共通点を捉え、技術としてまとめたもの。だが、試作段階ではターナ値が高すぎてしまって実用には耐えられないため計画が頓挫したという話を、咲岡は聞いていた。

「一応日常の基準値以内のターナ値に抑えることができた試作品が研究所にあってね」

「本当ですか?」

「本当だとも。携帯電話が要らなくなる時代がもう少しで来るに違いない。それで、ここからは提案なのだが……」

研究所はもう目と鼻の先である。雨岡は声を落とした。

「一つ持ち出してはくれないか?実験しようにも研究所内でいくら通信しても魅力に乏しい物でな、今も倉庫で埃を被っているのだよ。だから、できれば南半球のどこかとここほどの距離で通信を……」

「冗談はいいですよ、教授。あなたに似合わない」

咲岡は笑って拒絶した。そんな技術を使うつもりはない。百害あって一利なしだ。雨岡は露骨に肩を落として見せた。

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