四章八話

なんだそんなことか、という表情になって萌子は答えた。

「中二の時に図書室で菊川先輩に助けてもらったことがあって、その時から先生たちに黙って文学愛好会にこっそり通ってたの。ほら、あの校舎警備員さんもあんまり来ないくらいじゃない?」

ひたすら勉強やり放題って言うのも楽しいけれど、息が詰まるのも事実だから、それでこっそりね?と萌子は笑う。侑里も笑った。良かった、無駄な気を使わせずに済んだようだ。

「そっか。結構萌子の方が部活の先輩なんだね」

「そういうこと。だから部活への発言権も他の人よりあったの。でも、『孤独の樹』って不思議な絵だよね」

ちょっと声を潜めて萌子が言う。

「『孤独の樹』って大学の図書館に実物があるけど、神徒以外は見ちゃいけない絵じゃない?それには結構有名な噂があるんだけど、ユリは知ってる?」

「ううん、知らない。教えて?」

萌子が楽しそうなので、それに合わせて侑里も身を乗り出す。

「あの絵は代々色んな人に渡ってきたんだけど、その誰もが不審死を遂げてきたんだって。だから何年も何年も色んな人のところを渡り歩いたせいで、『青銅の門』が出現するまでどこにあるのか分からなくなっちゃったの。それなのに、あの『青銅の門』が出て来た途端に、ウチの大学の倉庫に突如として出現したんだって!」

「へぇ~…」

確かにあの絵の実物を見ると、言葉にはできない不思議な魅力がある。吸い寄せられるような、と言えばいいだろうか。もしもそれが本当に生物の魂を吸い寄せていて、絵が魂を食らうのだとすれば、確かに怪談である。

「なんだかありがちなホラーみたいだね」

「でしょ?『孤独の樹』について書かれた論文は結構多いんだけど、創作の世界からそのまま出て来たようだって書かれているのを読んで、私も昔コピーを見たことがあるの」

大学では『孤独の樹』を一般向けに公開することはない。その代わりに、実寸大のコピーと、拡大縮小と回転が自由にできるCGとが、大学のHPで公開されているのだ。


「その時、あの樹は青い花が舞っていて綺麗だな~って思ったのに、そのことが書いてある記事がなかなか見つからないの。探してるんだけど、ユリは知ってたりしない?」


「…………え?」

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