三章一話

神徒研究所は最寄駅こそ同じものの、高校のあるキャンパスから少し遠いところにある。大学が所有している研究所以外の建物は敷地内にはない。研究所には病院としての機能もある程度あり、研究員の多くと、研究に参加している神徒の何割かは研究所で生活している。

研究に参加している神徒の中で、菊川や斎藤のような見た目が異なるものの多くは、各種検査と遺伝子提供、数回のカウンセリング以降、研究に参加する必要はなくなる。今までのデータの蓄積の結果、肌の色を変えたり他人よりも多い体の部位をなくしてしまったりすることもできる。しかし、そのような者たちの中でも、体の半身が植物や石でできている場合や身長と同じほどの大きさを誇る羽の生えている場合は現在でも取り除くことはできない。血管や神経、骨、場合によっては脳や心臓にまで『青銅の門』の影響が及んでおり、神徒としての特徴なくしては生きることができないケースがあるからだ。それほど酷い状況でなかったとしても、日常生活を送るのが困難であるケースも存在するため、研究に参加するという名目でサポートを受ける場合がある。侑里は何度か研究所の奥の方から羽の生えた華奢な少年少女が現れ、そして去って行くのを見たことがある。

「まぁ、そうは言っても研究所じゃないと生活できないような神徒ってほどになると大体凄い力を持ってるみたいだけどね」

侑里と萌子は二人で駅から研究所に向かって歩いている。

「凄い力って言うと、どんなの?」

「どんなの、って言っても色々あるよ。半年前に研究所でびっくりしたのが研究所全体に大雪が積もってたってことかなぁ」

「そんな凄い人までウチの大学にいるの……!?」

「うん。どうもその神徒さん風邪引いてたみたいで能力にブレーキがかけられなかったんだって」

火を起こす、突風を吹かせる、大量の雨や雪を呼ぶ。侑里の能力で起こせることはポルターガイストやラップ音がせいぜいだが、派手なものとなれば際限がない。半年前に起こった「事件」も、そのような能力が重なり合った結果だった。

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