番外 その後の話・これからの話
この程度で……死ぬわけがない。
彼女は王、魔界の王なのだ。炎を統べる王が、たかが幽霊と人殺し如きに殺されるわけがないということだ。
彼女は思う、たかが人間にしては堅牢な氷塊だ。しかし魔王の火炎を封じていられるほどではない。そもそも封じられたままというわけにもいかない、大事な仕事があるのだ。
彼女は自慢の炎を全身から全力噴射。数秒で、氷を気体へと変貌させる。水の段階は、魔王クラスの火力ならすっ飛ばすことは簡単だ。
「観測としては上々か……くだらんことをしてくれたのは彼奴等だ。我をここまで封じたのは褒めてやるべきところだろうが……それは別として、かなり癪に障った。ここまでカチコチにすることないだろうが! そこまで許した覚えはない!」
青色の炎を服のように纏った幼い少女は、珍妙な人間たちと戦った時と同じような炎の翼を背中に現出させる。
「……人類の観測は遂行しよう。だがやり返しは忘れないぞ、必ず探し当ててやるからな。あのボケどもめ」
彼女の名はヴォルノ。5人いる魔界の王の中でも、ダントツで沸点が低い王として魔界では恐れられている。
まだ幼いとはいえ、実力が全ての魔界で王に君臨するだけの力があるのだから始末が悪い。魔王が無邪気というのは笑い事にならない。怒りが邪気であるなら、ただ恐ろしいだけだ。
ヴォルノは青い炎の翼を羽ばたかせ、空へと飛び立つ。
彼女は、非常にわがままで、自身が定めた線を超えられるのがとても嫌いな性格だった。
リムフィたちは、ヴォルノの定めた線を超えてしまったのだ。
国立魔術研究所。
リムフィが改造され、育てられた場所。
グアズ王国では最高峰の魔術開発機関であり、対魔物用の武器の設計・開発等が行われている。そのため、『魔狩り連盟』とも仲が良い。
そして重要なことがひとつ、魔力探査部が置かれているのだ。グアズ王国領土の魔力を監視する役割を担っている重要なチームだ。
「またも莫大な
「先ほどあったばかりではないか……沈静化したのではないのか?」
ここは研究所内部、地下。探査部のオフィスではない。
地面を掘ってそのまま部屋にしたような所で、明かりは少ない。壁や天井をレンガで補強しているから、かろうじて部屋になっているというような場所だ。レンガだらけだから、部屋全体が暗くてもはっきり見えるほど赤茶色だ。
薄気味悪く、怪しげな雰囲気に包まれている。ここは、限られた者しか入出を許可されていない、職員間でも不気味とされている場所だった。
「一度目は恐らく『魔狩り』の誰かが駆除してくれたのでしょうが……」
「なら、駆除できていなかったのだろう」
ため息をついて言うのは、魔力探査部部長。ここのところ、部下の報告はあまり良い出来事がないのだ。
「その
「移動しているようです、
「引き続き、監視を頼む。わざわざ地下までご苦労」
「はっ……失礼します」
そう言って、部長の部下は地下室を退出。
部下が出て行ったことを確認すると、部長は部屋の奥へと脚を運ぶ。この地下室だけでも大量の赤レンガが使われている。壁から天井、床まで全部レンガ。
レンガ造りの家なら一軒くらい余裕で建ちそうなくらいだ。部長も無駄遣いだと思っている。こういうインテリアになったのは前任者の趣味だ。
国立魔術研究所所長、ジンバルド・スタンフィッドは部屋の奥まで到達する。研究所の地下というにはあまりになにもない部屋。広くもないけど狭くもない。空き部屋としか思えないような部屋であるが、それなりに重要らしい。ジンバルド自身もよくわかっていない、前任者がそう言っていたことを、部下にも触れ回っている。
そんな空き部屋みたいなレンガまみれの部屋、現在はジンバルドのみが知っている秘密の扉がある。
ジンバルドは部屋の奥、行き止まりの壁のレンガの一つをぐっと押し込む。
押し込んだことで何かが起動したのか、多数のレンガがひとりでに動き出す。この部屋を開けるたびに、このレンガがこちら側にぶつからないか、ジンバルドは冷や冷やしている。
そして現れた部屋は、狭い。緑色の証明で彩られていた。
先ほどとは違い、床は石造り。しっかりとした石で、大理石に匹敵する美しさだった。壁も同じく、美しい石壁だ。
部屋の真ん中には、人が入るサイズの大きな試験官のようなモノが固定されて立っている。緑色の証明で、透明なはずの中の液体も緑色にみえてしまう。
「強大な
今、その当事者たちはニアマギノからグアズ・シティに移動している。
生存者は4人。そいつらから話を聞かないことには、当時の状況がつかめない。
まだまだここの設備も不十分なのだ。全力で造った設備だが、まだ不足している。魔物相手ではいくら性能を上げても足りないのだ。
「あまりに強力な魔物なら、いよいよ君の出番かもしれない……よろしく頼むぞ……『パラーチ・ジェーシャチ』……グラミルムも厄介そうなのを置いていったことだ……」
巨大試験官の内部は透明な液体で満たされている。その中に人がいる。
子供の姿で、身体に毛は一本もない。赤子のまま、大きくなったような身体付きだ。
瞳は開いていない、おそらく聞こえてもいない、呼吸すらもしていないようだ。
だが、ジンバルドは呟いた。自分を、わからせるために。
あまりこれを起こしたくはない。制御する自信がない。そんなのは捨てなければならない立場なのだ。いざというときは役目を果たす、それだけを考えて生きていかねばならないのだ。
ジンバルドはそう決意を新たにすると同時に、グラミルムという男への怨みも新たにしてしまう。何回も同じことをやっている。忘れられないのだ。
グラミルム・ナチアルスが主導で開発した『パラーチ』という人間兵器。これの運用・管理を引き継いでいるのがジンバルド・スタンフォッドだ。
何故か『一番目』がどこにも存在しないことに、ジンバルドはいつも疑問を持っていた。
……どこかにいるのか、と考えることもあるが、いつも多忙ですぐに考えるのをやめてしまうのだ。
もう不死なんだから好き放題やってもいいよね? 有機的dog @inuotoko
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