28話 偵察

 無理やりというか、半強制的に連れてこられたマギノ山。二回目。

 空の炎は依然として停滞し続けている、変化がみられない。今のところは、急な広がりは最初だけ。いつ急激な変化があるかはわからない。


 予測も推測もほぼ不能な現状。どうにかするのが『魔狩り』らしい。エノルさんが言うには『魔狩り』の使命なんだとか。ダーリアも頷いていたけど、絶対共感してない。


 新米である僕にエノルさん達は心構えとかそういう、普通の人ならためになるなと思うような内容を色々仰っていたが、僕は全て聞き流した。


 マギノ山までの移動は『魔狩り連盟』の所有する馬車で行った。

 僕たちもこれを使えばよかったのに。ダーリアが言うには金がかかるから嫌だとか。ケチ臭いなぁ。


「ロイナ、魔術の感知は引き続き頼む。異常があればすぐに言ってくれ。バローガとシャナフも、入山後も引き続き周囲の警戒を怠るな」


 エノルさんが馬車の中でそういう指示を飛ばしていた。僕たちも指示を受けた。できるかはわからないけど、とりあえず頷いておいた。

 責任? 

 知らんな。僕には関係のない言葉だ。


 そして6人でマギノ山に入山。ミミカはロイナさんを警戒しながら、こっそりついてきているようだ。ダーリアの傍を離れられないというのは苦労するだろう。


 周囲を警戒しつつ、僕たちは炎が飛び出してきた場所へと向かう。ダーリアも僕も正確な位置など憶えちゃいなかったため、すごく大雑把に案内した。心の中でごめんなさい。


「しかし、どこにも何もいないのね……マギノ山ってのは魔物がちょくちょく住み着くってのに……」


「あぁ……やはり空の炎が関係しているんだろう」


 エノルさんとシャナフさんがそういう考察をしてくれるなら、僕は何も考えずに適当についていくだけで済む。意見を求められたら同意する感じでいく。

 この街がどうなろうが知ったことではないし。これって、トロール討伐はどうなっちゃうのかなぁとか、そういう不安しかない。


 僕は報酬のない労働はしたくない質だ。だが、エノルさん達のパーティはどうやら違うらしく慈善活動で『魔狩り』をやっているような感じがした。


 生活のためである僕とダーリアとは意識の差がありすぎるのだ。


 現にこうやって周囲をくまなく警戒しているのは彼らパーティだけで、僕とダーリアはきょろきょろと警戒をしているフリだけ。ミミカのことが見つからないか、ダーリアは冷や冷やしているのかもしれない。


「もうすぐ山頂だが、この辺から炎が出現したんだな?」


 周囲の探索と警戒を怠らず、真面目にやってくれたおかげで時間は少しかかった。魔物どころか動物もいなかった。

 燃える空は大きな動きを見せず、ただ青色にオレンジ色が揺らめいているだけだ。

 炎は拡散もしなければ、炎そのものが落下してくる様子もない。炎にやられて落下する鳥くらいだ。一度幽霊が落っこちるのを見ると、派手さにかける。


 山頂付近には木々は少なく、岩場だった。登りにくいったらない。


 マギノ山は過去100年に渡って火山活動はなく、ほぼ休火山扱いらしい。そこから炎が舞い上がったのなら大問題だが、噴火などではないことは明白。噴火なら溶岩が流れるし、煙が舞い上がる。


 今起きていることは、炎そのものがこの山から発生している。噴火ではない。

 何かしらの、魔の関係はあるだろう。


「おい……あそこをみろ」


 寡黙そうなおじさま、バローガさんが山頂の方向を指さす。


「もうすぐ……おそらく頂上から異変が起きている」


「はい……そう思います……魔力感知でも、てっぺんから凄い凶暴な魔力を感じられます」


「そうか……バローガ、俺と一緒に偵察に行ってみるか? 全員で行って一気に壊滅ってのは避けたい」


「いいだろう」


 ……僕とダーリア、出番ないですね。ここにこれたのも正直偶然。案内が奇跡的に正しかったようで安心した。(後で聞いたけど、ダーリアは位置の検討はそれなりに付いてたらしい)


「俺たちがこの笛を吹いたら、俺たちの事は構わず逃げろ。緊急事態の合図だ。俺たちだけでは対処できない案件だからな。あくまでも偵察だから……吹かないことを祈りながら戻っては来るがな」


 岩場で手持ちの剣に具合を確かめながら、エノルはそう言った。いいセリフだ。

 

「シャナフ、ロイナをその間守ってやってくれ。ロイナも疲れるだろうが、魔術感知は続けてくれ。異常があれば、知らせる手段は何でもいい。教えてくれればな」


「はい……どうか気を付けて……」


「たかが偵察、あの発生源がどうなってるのかみてくるだけだ。バローガそろそろ準備はいいか?」


「いつでもかまわん」


「あぁ、そうだ。ダーリアさんはどうする? 残るか、偵察に付き合うかなんだけど」


「付き合いましょう。ここまで役に立ててませんから」


 また僕を巻き込むつもりなのかと耳打ちする前に、ダーリアは小声で先手を打ってきた。


「君は来なくていいよ。これは興味本位の偵察だ。邪魔するなよ」


 それだけ言って、ダーリアはエノルとバローガのもとへと走って行った。岩場を物ともせず移動する彼らは、さすがは『魔狩り』のベテランだ。僕なら絶対転ぶ。


 さて、待ち時間。残っているのは僕とロイナさんとシャナフさんだけだ。アウェイの空気はとても心地悪い。

 一応は、ロイナさんの護衛。カッコつけて言うならそうなる。

 できることなどなにもないが、それでも護衛。

 異常事態の際、シャナフさんの戦闘能力と判断力に全てがかかっています。頼りにさせていただく。


 警戒っぽいことをしながら僕は空を見ていた。

 シャナフさんは山のてっぺんのほうを、ロイナさんも同じだ。杖を握りしめてパーティの帰還を待っているようだ。

 それでもちゃんと仕事はしているらしく、その証拠にミミカがちっとも現れない……あれ? そういえばダーリアがあっちにいるならミミカも偵察にいるのか。ここにいないじゃん。マジに一人か。

 向こうに僕の御仲間が全員、僕を置いて行ってしまった。大丈夫なのだろうか。


 女の子たちと話をしてみたかったが、女の子たちはとても真面目そうな雰囲気であったために断念。

 だから空を眺める。空がメラメラと燃えているなんて、そうは見られないのから脳裏に焼き付けておこうと思ったのだ。


 そしてジッと見ていると、炎の規模が少しづつ小さくなっていくのが分かった。

 空の炎は縮小していき、まるで巻き戻しでもされているかのように、空からじわじわと炎が縮小していく。頂上という一点に集まっていくように。


「なにが起きてるの!? ロイナ!?」


「えーっ……さっぱり何が何やら……また元に戻ろうとしているとしかいいようがありませんよ……魔の力だろう空の炎はせっかく広がったのに、またマギノ山に集まっているのでしょうか……?」


 空の炎の出戻り。このマギノ山に未練があるのだろうか?


 僕には全貌を解き明かすだけの知識もなければ推理力もない。致命的に役に立たない人間だと自負しております。

 だから全部丸投げ。働きたくなんかない。


 炎はマギノ山の頂上に、徐々に加速しながら集結していく。


「どっ……どうします!? シャナフさんっ!?」


「決まってるだろロイナ、エノル達を助けに行く」


 勇敢なことだ。炎が集まっているこの山の頂上なんて、行きたくないだろうに。仲間を助けに行くなんて、涙がでる。


「リムフィ君だっけ? 君はどうする?」


 そんなの選択肢は一択だ。


「ここに残ってみなさんを待ちます」


 エノルさんの指示は待機。危なそうなら即刻退避。

 命令は守らないと。ルール違反なんてしない。いろいろと怖いし。


 僕が残ることで、ロイナさんとシャナフさんは安心してエノルさんチームに合流できる。

 正直、合流したところでなんになるとは思わなくもないけど、仲間としての意識でもあるのだろう。僕には今のところ理解できない。


 ダーリアを殺すわけにはいかないが、ミミカもいる。死ぬわけはないと信頼している。

 どうせ死ぬならミミカごと消滅していただきたい。


 ロイナさんとシャナフさんペアが頂上まで岩場を走って行ったので、僕は一人で頂上の方を見ていることにした。僕が異常と判断すれば、一人で逃げる。


 そしてその異常は、たったの3分後に起きてしまった。

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