第38話 バレンタイン 2
2月14日。今日は平日で通常通り授業があるけど、教室内は、浮ついた空気が流れてる。女子は勿論。男子もソワソワしてて、落ち着いてない。まあ、かく言う俺も落ち着かない。
鞄の中のチョコを渡す事を考えると、落ち着かない。
拓人さんと付き合いはじめてから、半年以上過ぎたけど、バレンタインチョコを誰かにあげるとかやった事ないから、休憩時間毎に、鞄の中をチェックしては、ため息をつくという事を繰り返していたら、夏音に、「大丈夫?」と心配されてしまった。
ーーー
放課後。拓人さんの学校からも、俺の学校からも、歩いて5分の場所にある公園で、待ちあわせて、駅前のファッションビルへ向かう予定だ。
待ちあわせの時間は、16時。今は15時50分。10分くらい待てば来るかな? 拓人さんの性格上、5分前には来そうな気がする。
こんな時って時間長く感じるんだ。
俺は時々、公園の時計をチラチラ見ながら、拓人さんの訪れるのを待っていた。
そして16時丁度に息を切らして、拓人さんがやってきた。
「いやごめん。遅くともなった。帰りがけに、雫のヤツに捕まってさ」
「雫ちゃんに?なんで?」
「何か知らないけど、夕陽に渡してやって欲しいって」
と拓人さんが取り出したのは、一通の手紙だ。
「誰からじゃろ?まぁいいや帰って読もう」
「あっ雫からさ、手紙読む時は、僕も一緒に読めってさ」
「なんでじゃろ?むぅ、雫ちゃんの考えとる事は、よう分からん。あっ拓人さん。バレンタインのチョコ」
「あっありがとう御座います」
と拓人さんはチョコを鞄の中にしまう。ホントはもっと喜びたいんだろうけど、さっきの手紙の事が気になっているのかもしれない。
俺たちは、公園から場所をファッションビルのカフェへと移した。
カフェの席に隣合うように
俺達は座る。拓人さんの身体が触れてきて、ちょっと恥ずかしい。まぁこうしないと、手紙読めないんだけどね。
貰った手紙を開ける前、差出人は誰なのかと、見て驚いた。平原キク。曾祖母ちゃんの名前だ。
「平原キクさん?誰?」
「俺の曾祖母ちゃん。亡くなる前に書いたのかな?」
と言いつつ、俺は小さなハサミで慎重に封を開ける。
「夕陽へ。」
『夕陽がこれを読んでいるという事は、無事女の子に戻ったという事ね。事情は、朝陽から聞いて驚いてる事でしょう。さてこれからは、朝陽にも伝えてない、あなたの名前の本当の意味です。あなたの父親の隆史には、上が朝陽だから、夕陽と名付けた聞いてる筈です。だけど、それは違います。本当はあなたに『優陽』と名付けたかった。
優しく、暖かな太陽ような娘に育って欲しい。そう願いを込めて。だけど、平原家の事情で男の子として育つのだからと、この字を当てる事を、隆史は許してはくれませんでした。
彼があなたの実の父親である以上、私も強くは言えません。でもゆうひと名付けた本当の意味を私は、あなたに知って欲しい。だから今、こうして手紙を残してます。
夕陽。どうかあなたが、優しく暖かな太陽ような娘に育ってる事を願ってます。
平原キク』
「曾祖母ちゃん」
手紙を読み終えて、自然とボロボロと泣いてしまった。
拓人さんは、暫く黙って俺の頭を撫でてくれた。
「落ち着いた?」
「……うん。まさか俺の名前にそんな願いが込められてたなんて思わんかった。今の俺が、曾祖母ちゃんの願い通りかどうか分からんけど」
「曾お祖母さんの願い通り、夕陽は、優しくて太陽みたいに、暖かい娘だよ」
と言って、ほっぺたに唇の感触。
「今、チュって」
「そっキスしたんだよ」
してやったり顔の拓人さん。
さっきは、感動とか嬉しさとかで、泣いちゃったけど、今度は、恥ずかしい。暫く、拓人さんの顔が見れなかった俺だった。
目が覚めたら女子にされてた俺。 猫田 まこと @nekota-mari
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