第37話 バレンタイン 1


 1月末の休日。俺と晶は、桃宮駅前商店街の一角にあるファッションビルに来ているところだ。目的はバレンタインのチョコを買う為だ。


 ファッションビルの最上階の特設売り場には、沢山の女性がいる。俺達くらいの年齢の娘は勿論の事、中には小学生いや幼稚園や保育園に通ってそうな年齢の娘もいるし。




「バレンタイン前なのに、人いっぱいおるね」


「じゃね。姉貴の言うとった通りじゃ。早く来ないと人気のチョコは売切れるってのは嘘じゃないみたい」


「ほうじゃね」


 と返事しつつ、昨日の雫ちゃんとの会話を思い出す。




「ねぇ、あんたらバレンタインのチョコどうするん?」


 お風呂上がり、トレーディングカードゲームをしてた俺と晶に雫ちゃんが、話を降ってきた。


 バレンタインのチョコって早くない?半月くらいあるのに、もうそんな話するの?


 晶もそう思ったのか、俺が今思ったままの事を口にしたんだ。


「はっ?バレンタインのチョコ?まだ早くない?半月くらいあるよ?」


「も·う·半·月·しかないんよね。買うなら買うで、早はよう買わんと人気のはなくるよ!全く!クリスマスのプレゼントは、早うから用意しとったクセに、いっちゃん(1番)肝心なバレンタインのチョコの事は考えとらんってどういう事よ」


 プンスカプンと怒る雫ちゃん。なんか俺達に忠告というよりは、姉である自分には、彼氏がいないのに、妹達にはいるって、どういう事的な当てこすりのように感じるんだけど。気の所為かな?


「夕陽、あんた、ばり(すげー)失礼な事考えかった?」


「イエ、滅相もないです。ハイ」


「……まぁ、そういう事にしといちゃるわ。とにかく、明日二人とも、バレンタインのチョコ、こうてきんさい!(買ってきなさい) これ姉ちゃんの命令じゃけぇね。返事は?」


「イエス、マム」 


 と俺と晶は返事したのだった。




---


「晶は、どんなの買うん?」


「うーん。透先輩、ああ見えて甘党なんだよね。だから、ミルクチョコとかにしようかなって思っとる」


「そうなん。拓人さん、甘いのはそこまで好きじゃないんよね。ビターチョコかな」


 と人で溢れかえる売り場を行ったりきたりしながら、品定めする。


「これ、ゴダバのチョコだ。有名ブランドなだけあって高いな」


「あっコッチなら安いよ。しかも、ミルクチョコもビターチョコもある」


 と透先輩と拓人さん分のチョコを選んで、ふと思った。


「夏音や兄貴にも、チョコあげようかな」


「ほうじゃね。なら、夏音以外にもあげんと。友チョコってやつ」


「友チョコか。となると、夏音と香澄。あっひなちゃんも」


「ひな姉から、どうせ貰うじゃろうけど、仁兄さんにもあげとくか」


「ほうじゃね。ていうか、仁の事、コロっと忘れとった」


と会話をしつつ、俺と晶はバレンタインのチョコを選らんだのだった。


 バレンタイン当日が楽しみだな。拓人さん、喜んでくれるといいな。


とその時の俺は考えていた。けど、バレンタイン当日に素敵なサプライズが用意されてるなんて、その時の俺は知る由もなかったのだ。












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