第15話 魔法と新生活

 さて、一生分驚いた訳だが、いよいよだ。


 ようやく俺は魔法が使えるのだ!

 「お待たせしました」とか、そんな声が聞こえて来そうなくらい待ったと思うよ。


 エマさんが教えてくれるそうだし、明日の朝すぐにでも聞きに行ってみるかな。


 そういえば魔水晶壊しちゃったけど大丈夫なのかな?

 もう夜だけど今からでも謝りに行ってこようかな?


 そう思って母上の寝室に赴いた。

 そして部屋に入る前にノックをする。


 いや。

 しようと思っていたのだが、部屋から何やら音が聞こえる。


 ………。



 あー、これはアレだ。

 オトナなやつだ。


 父親と母親が致しておりました。

 ギシギシアンアンとうるさいなぁ。

 全くもって悩ましい。


 出来ずに死んだ人もいるんですよ。

 まったく。


 そういえば俺が生まれるのに何年もかかったらしいけど、弟や妹は出来るのかな?

 というか王族なら跡取りはいっぱい居ないと困るんだろうな。

 めんどくさい。


 ……明日の朝、出直そう。


 そんなことを考えていると俺を探しに来たらしいエマさんが抱きかかえてきた。

 暗くてよく見えないが顔が赤いようだ。


 そのままベッドに連れられて、いつものように豊満な胸に頭ごと顔をうずめさせられた。


 でも、大して嬉しくないんだよなぁ。

 大きいのは好みじゃないし、俺には乃愛という人が居るのだよ。


 そんなこんなで長い夜は終わりを告げた。



 朝、いつものように着替え(させて貰っ)て朝食を摂るために広間に向かうと、珍しく両親が揃っていた。

 話があると言われ、食べながら耳を傾けた。


 「なぁ、サーネイル」


 「なんでしょうか? 父上」


 「昨日ローゼに聞いたのだが。魔法が、その……」


 あ、魔水晶壊しちゃったことかな。

 やっべえな。


 「その節は申し訳ございませんでした!」


 素直に謝る。

 ナイフとフォークを置いて机越しに頭を下げた。


 「え?」


 「あれ?」


 勘違い?

 アレが国宝とかだから怒ってるのかと思ったのだが。


 「魔水晶壊しちゃったことでは無いのですか?」


 「魔水晶? あれは壊す物なのだよ」


 「そうなんですか」


 壊して良かったのですか。

 それは何よりです。


 でも、それなら何用なのだろうか?

 いや、考えるまでもないか。


 「話は、そっちじゃない方だ」


 「全属性伝説級の才能ですか」


 「うん、それ。お前おかしいって」


 おかしいって言われた。

 親バカにおかしいって言われるのはよっぽどだぞ?


 「そうなんですか。……ハァ」


 「ため息って。嬉しくないの?」


 「そこまで求めてない。というより、この身分だと必要ないって感じです」


 本心である。

 魔法が使いたかったからといって、最強になりたかった訳じゃあないんだよなぁ。


 日常生活をもっと便利にしたいっていう純粋な軽い気持ちで望んだのだ。

 昨日からずっと悩ましいなぁ。


 「まぁ、関係無いけどな」


 「え?」


 「魔法っていうのは特別な言語が必要なんだよ」


 「ああそれですか。ええ、知ってますよ」


 「うん。だから……」


 「まぁ、習得してますケド」


 「フゥぇイ!?」


 ヘンな声が飛んできた。


 だってシャルマン語でしょう。

 日本語ですよ。

 現代文も古典もマスターしたんですよ。

 楽勝じゃん。


 「あ、あのシャルマン語を!?」


 「はい」


 「ど、どこで? 言っておくがそんな本は王宮はおろか、この国には存在しないぞ! あるとしたら、西か東の大陸だ」


 うわ、言い訳出来なくなった。

 どうしようか。

 メルヘンチックにいくか。


 「よ、妖精さんが教えてくれた。……のかな?」


 ヤベエよ。

 ヘマした。

 妖精とか見た事ねぇよ。


 「妖精だと!? まさか精霊術まで…?」


 お?

 勝手に良い方に解釈してくれてるよ。

 フフフ、計画通り。


 「サーネイル」


 「なんでしょうか」


 「お前はどうしたい?」


 「はい?」


 何をだろう?

 将来の事だろうか。


 「今お前には、最強の剣と剣術の才能、そして最強の魔法使いの才能、挙句には精霊術まで。ありとあらゆる才能に満ち溢れているのだ」



 最後のはたぶんチガウヨ。


 「お前の選択次第では、王位継承権を他人に渡すことも出来る」


 「えええっ!?」



 そんな無茶な。


 「お前の才能をここで腐らせたくはないんだ。自由に選ぶと良い。俺たちはそれを全力で応援する」


 「サーネイル。私たちのことは気にせず、自分のしたいようになさい」



 うぇー、マジですか。

 確かに他にも跡継ぎは出来そうだけども。


 どうしたもんか。

 取り敢えず魔法だけは少しだけでいい。

 だから習いたい。


 できればエマさんに。

 というかそれ以外の人ならイヤだ。

 俺の日本語力を知られるのはマズイから。


 「僕には、決めかねません」


 「そっか……」


 「でも、魔法は少しだけで良いので使えるようになりたいです」


 「では王国中から優秀な魔法使いを集めよう」


 「いえ、僕はエマさん以外には習いたいたくはないです」


 「そうかい。ならエミリア……」


 「申し訳ございませんサニー様。私には無理です」


 「ええええっ?」


 何をおっしゃいますかエミリアさんや。

 旅行前に教えられると言ったじゃんか。

 ぜひとも説明が欲しいところです。


 「ど、どうして?」


 「全くという訳では無いのですが、せいぜい二属性の初級までが限界です。サニー様には申し訳ありませんが、変異種の副作用で変異種によって得た自分の技術を他人に教えることができないのです」


 あらまあ、大変だ。

 教えて貰えないのも残念だが、それ以上に変異しまくっている俺はどうなるのだろうか?

 そんなの本には書いてなかったぞ?


 「そう……ですか」


 「すみません、役立たずで」


 「いえ、エマさんはいつも凄すぎるので良いんです」


 「ありがとうございます。サニー様」


 「それでサーネイル。どうする気だ?」


 「うーん。独学、ですかね」


 「独学か」


 「どうせ学校には行きますし、詳しくはそこで習いたいです」


 もちろん乃愛と一緒にね。


 「そこまで言うなら仕方がない。せめて練習場所だけでも用意しよう」


 「ありがとうございます、父上」


 「また何かあったら言え。頑張れよ」


 「はい!」



 そうして三日後。

 俺は約束通り練習場所を用意してもらった。


 王宮から離れた山の中の平原だ。

 そこに小屋を建ててエマさんと二人で生活していくことになった。


 最低限必要な物以外は送られないように断っておいた。


 自給自足だ。

 畑も作れそうだし、周囲には弱めの魔物が出るのと熊が少しでる位の脅威しかない。

 エマさんにかかれば余裕すぎる。


 エマさんには火と土の初級魔法を教わってからは基本的に家事をしてもらっている。


 火魔法は簡単な火を操ることだけだった。

 土魔法は小さな岩を作って、それを飛ばすことだけ。

 俺は午前中にエマさんと畑仕事をして、午後からは魔法の練習兼狩りをして過ごした。


 もちろん黒竜丸も持っていった。

 コイツはめちゃくちゃ役に立ったのだ。


 まず、畑のためにクワになったり、ジョウロやスコップなどになったりと、ことある事に変形しまくった。

 そして狩りでは剣はもちろん、ナイフや鎌などとにかく金属なら何にでもなってくれたのだ。

 自分の意思で勝手に変形して。

 お陰で色々と捗った。



 魔法はほとんど手探りだ。


 最初はエマさんに教わった詠唱をしていたのだが、わからないので無詠唱かつ感覚で魔法を放ってみた。

 すると出来た。


 火が指先から出てくるのをイメージしながら全身のチカラを集中させたのだ。

 そしたら「ボオッ」と火がイメージ通り現れた。


 その後も試行錯誤を繰り返して色々と出来るようにはなった。


エマさんはことあるごとに褒めてくれたが、基準が良くわからないので無我夢中で頑張った。


 正直、楽しかった。

 堅苦しい王宮を飛び出して綺麗な自然に囲まれての生活は新鮮で、とても良い経験になった。



 そして月日はあっという間に流れていった。

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